最新記事

海洋生物

海中の酸素濃度の低下で海洋生物が失明するおそれがあることがわかった

2019年5月21日(火)19時30分
松岡由希子

ifish -iStock

<海洋生物の一部で、海水の酸素濃度の低下により失明するおそれがあることがわかった>

海洋生物の多くは、食物を見つけたり、天敵から身を隠したり、逃げたりするうえで視覚が重要な役割を果たしている。視覚の維持や視覚情報処理には多くのエネルギーを要するため、海中の酸素濃度の変動には敏感だ。このほど、海洋生物の一部で、海水の酸素濃度の低下により失明するおそれがあることがわかった。

網膜の光感受性が水中の酸素濃度に極めて敏感

米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)スクリップス海洋研究所(SIO)の博士課程に在籍するリリアン・マコーミック氏らの研究チームは、カリフォルニア州沿岸に生息するヤリイカ、カリフォルニア・ツースポットタコ、カニ(短尾下目)、コシオレガニの幼虫を酸素濃度の低下した環境にさらし、これら4種類の海洋無脊椎動物の網膜の光感受性が水中の酸素濃度に極めて敏感であることを世界で初めて示した。

この研究成果は、2019年4月24日に学術雑誌「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・バイオロジー」で公開されている。

研究チームは、スクリップス海洋研究所近くで採集した幼虫の網膜に電極をつけ、海面と同等の高い状態から酸素濃度を低下させて、視覚の短期反応を網膜電図(ERG)で検査した。

酸素濃度の低下に対する視覚の反応は種によって異なり、ヤリイカとカニは、海面の酸素レベルの20%程度まで酸素濃度を下げるとほぼ失明した一方、カリフォルニア・ツースポットタコは、酸素濃度が一定レベル以下になってから網膜の反応が低下しはじめた。コシオレガニは酸素濃度の低下に対して比較的耐性があり、網膜の反応の低下は60%にとどまった。また、酸素濃度を再び上昇させると検体のほとんどが視覚機能を回復させたことから、短期間での酸素濃度の低下による損傷は一時的なものにとどまるとみられている。

海水の酸素濃度は、この50年間で2%下がっている

海水の酸素濃度は、昼夜のサイクルだけでなく、季節や経年でも変化し、その深さによって変動するが、近年、地球温暖化の影響を受けていることもわかっている。

独ヘルムホルツ海洋研究センター(GEOMAR)が2017年2月に発表した研究論文によると、世界の海中の酸素濃度は、1960年以降の50年間で2%下がっており、地球温暖化に伴う酸素融解度の低下と深海の換気の減少によって、2100年までに7%下がると予測されている。

また、沿岸海域では、富栄養化によって海中の酸素が不足する現象もみられる。米ロードアイランド大学のカレン・ウィシュナー教授は、米メディアサイト「マッシャブル」において、「視覚が低下して、周囲が見えづらくなれば、食物や天敵の存在を気づくことができなくなる。海洋生物にとって酸素濃度の低下は非常に深刻な問題だ」とコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利維持でマイナス金利回避の見込み

ワールド

マクロン仏大統領、中国主席と会談 大規模なビジネス

ワールド

米議員、戦争権限決議案提出 「近く」ベネズエラ攻撃

ワールド

EU、リサイクル可能な電池・レアアース廃棄物の輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中