最新記事

火災

ノートルダム大聖堂 再建に立ちはだかる障害

Notre Dame Restoration Will Face Constant Roadblocks

2019年4月17日(水)18時00分
M.L.ネステル

火災で多くの部分が破壊されたノートルダム大聖堂で外壁の修復にあたる作業員(4月16日)Benoit Tessier-REUTERS

<大聖堂の火災はパリ市民にこのうえない衝撃を与えたが、修復と再建は不可能ではないと専門家は言う。ただしかなりの困難に直面することは確実だ>

容赦のない炎によってノートルダム大聖堂の屋根が崩壊するありさまを、セーヌ河岸に集ったパリの住民たちはあえぎ、涙を流しながら見守った。だが1992年に壊滅的な火災に見舞われた英王室のウィンザー城の修復に関わったイギリスの建築家は、焼け跡の灰のなかから希望は立ち現れると信じている。

何世紀もの間、貴重な歴史的建造物や聖なる場所が爆弾や火事によって破壊される事件はいくどとなく起きている。だが昔日の栄えある姿に復元されたケースも多い。4月15日に本誌の取材に応じたロンドンの建築事務所ドナルド・インサール・アソシエイツの保全修復専門家、フランシス・モードがノートルダム寺院の再建に関して慎重だが楽観的だったのは、そのことを知っているからだ。

「フランス、そしてヨーロッパがこれまで悲劇的な出来事から立ち直ってきたことを、思い出す必要がある。たとえば、2度の大戦後のめざましい復興だ」と、モードは指摘する。「火災がこれほど大きな衝撃を与えるのは、予想もしないときに起きるからだ」

火が収まったら、まずやるべきことは、再利用できる材料を、できるだけ多く確保することだ。「火災の後の清掃作業は慎重に行われるべきだ。再建する建造物に再利用したり、修復作業の見本として利用する可能性のあるものを確実に回収する必要がある」と、彼は言う。

石灰岩は入手できるか

ある意味でモードたちの仕事は、命に係わる怪我を負った患者を元の状態に戻す外科医に似ている。

「私たちは、どの修復プロジェクトにおいても、まず崩壊のメカニズムを解明する。その後に建築における病理学者のような役割を果たす。つまり、崩壊した部分を修復する方法を考案するべきか、それとも完全にスクラップにするほうがいいかを判断する」

修復作業のためにすでに数億ユーロの寄付が集まっている。それでもノートルダム大聖堂の修復は、次から次へと起きる障害との戦いになるだろう、とモードは予想する。

第一に、材料が問題だ。非常な高温の下では、大聖堂の建設に使われている石灰岩が分解するかもしれない。21世紀の今、12世紀から13世紀に建設された大聖堂にふさわしい石灰岩を見つけることはたいへんな仕事だ。

とはいえ、モードによれば、「オリジナルがもはや入手できない場合に使うべき代替品」が先例で決まっているので、そこから「最も適切な」材料を選ぶことができる、という。

「火災が再び発生しないように、たとえば屋根などは、どの程度新しい耐火建築にするべきか、興味深い議論が行われるだろう」と彼は言い、建築基準法によって、再建された聖堂では火が簡単に建物全体に回らないようになると付け加えた。

大聖堂はユネスコの世界遺産になっていることから、修復にあたって守らなくてはならない厳格な指針もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中