最新記事

アフリカ

独裁政権倒したスーダンとアルジェリアに「アラブの春」は訪れるか

2019年4月17日(水)11時00分

アフリカのアルジェリアとスーダンでは国民の支持を失った長期政権を軍が倒したが、2011年の中東民主化運動「アラブの春」後に改革が進まなかった他のアラブ諸国の動向をなぞっているように映る。アルジェで10日撮影(2019年 ロイター/Ramzi Boudina)

アフリカのアルジェリアとスーダンでは国民の支持を失った長期政権を軍が倒したが、2011年の中東民主化運動「アラブの春」後に改革が進まなかった他のアラブ諸国の動向をなぞっているように映る。

アラブの春では政治や経済改革への期待が高まり、エジプトでは軍が傍から注意深く見守った後、政治的な影響力を強めるために混乱に乗じて介入。軍幹部は、独裁体制を維持していたムバラク政権に反発する国民のデモを鎮圧できないと悟ると、ムバラク氏を退陣に追い込んだ。

史上初となる自由選挙ではイスラム組織を基盤とする政権が誕生し、2年後には国防相だったシシ氏がクーデターを主導して大統領に就任。シシ氏は14年と18年の行われた選挙でも勝利し、いずれも97%の支持を得たと主張している。エジプト議会は、大統領の就任期間を2034年まで延長する憲法改革を提案している。

スーダンでは、約30年の長期政権を維持したバシル大統領が先週、大規模デモに直面し、クーデターで失脚した。

国民は国防省周辺に集まり、軍がバシル大統領の解任を後押しするよう求めた。軍政を率いる移行軍事評議会の議長には国防相のイブンオウフ氏が就任したが、市民の猛反発を受けてわずか1日で辞任し、アブデルファタハ・ブルハン氏が後任に就任。ブルハン氏は13日、最長2年の移行期間を経て文民政権を発足させることなどを約束した。

変化を後押ししたのは国民だ。スーダン人はスローガンで「勝利か、さもなくばエジプトになる」と呼びかけた。

コメンテーターのマッジ・エル・ギズーリ氏は「最大の間違いは、軍が味方になるとの期待があることだ。軍に対する思いは理解するが、何のために存在しどんな行動を取る存在かを誤解している。」と話す。

アルジェリアのガイドサラハ軍参謀総長は、より平和的な解決策を打ち出した。高齢のブーテフリカ大統領(82)が5選を目指して大統領選に出馬した際、退陣を求める考えを表明した。

アルジェリアでは、30歳以下の4人に1人が失業中で、この不満から収入源を原油・ガスから多様化したり経済の自由化を求める動きが起きている。スーダンでも生活状況改善への要求がクーデターにつながった。

29歳のスーダン人販売マネジャー、エルシェイク・アリ氏は、今起きているデモは政治よりも経済問題が中心で、厳密には「アラブの春第2章」ではないと指摘した。「スーダンやアルジェリアで起きているのは、悲惨な経済状況や飢えに見舞われ、自由を奪われ虐げられている若年層の反発だ」と指摘。「どのような形にせよ勝利ではない」と話す。

最近、アラブの春に関する書籍2冊を出版したロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの中東政治学のファワズ・ジョルジュ教授も同じ見方だ。教授は「アラブの春という言葉は非常に誤解を招きやすい。すべてが花開き、長年続いた深刻な危機を解決する特効薬のように聞こえるからだ」と指摘した。

中東地域での動きは、アルジェリアやスーダンの国民が自由やよりよい未来を求めても、その希望は打ち砕かれそうだ、と示唆している。

チュニジアは民主化の成功事例ともてはやされるが、経済危機によって生活水準は下がった。リビアは「ニューカダフィ」と呼ばわれる有力軍事組織「リビア国民軍(LNA)」のハフタル司令官がシラージュ暫定首相と対立し、国家分裂状態に陥った。シリアやイエメンも内戦が続いている。

スーダンやアルジェリアも民主化の先行きは不透明だ。

ジャーナリストのジアド・クリシェン氏は「軍は影響力を維持したがるだろう。権力の甘美さと優越感を知った軍は、自分たちだけが国を守れると思い込む」と指摘した。

(Michael Georgy and Tarek Amara記者)

[ドバイ/チュニス 14日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の24年名目GDP、134.8兆元に下方改定

ワールド

ウクライナ巡る米との交渉、ゆっくり着実に進展=ロシ

ビジネス

小売販売額11月は前年比1.0%増、休日増と食品値

ワールド

再送公債依存度24.2%に低下、責任財政に「腐心」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中