最新記事

欧州

習近平訪仏でわかった欧州の対中争奪戦

2019年4月4日(木)14時15分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

であるから、独仏首脳とEU委員長はそろって中国に釘を刺した、といいたいところだが、そうでもない。

メルケルらとの首脳会談のあとでマクロンは、「国際的な平和と安全面において強力な多国間主義を構築する必要性」についてゲストたちの意見が一致したと強調した。「我々が共に構築したいのは、よりバランスの取れた、より新しい多国間枠組みである」と共和国大統領はつけ加えた(2019年3月27日付けのル・フィガロ)。

メルケル首相もまた新たな協力分野を示唆し、アフリカについて「西側の開発援助が貧困との闘いにおける中国の経験と結びつく可能性がある」と述べた(2019年3月27日付けのレゼコー紙)。発展途上国に対する中国支配が問題視されているが、欧州諸国はもともとアフリカの旧植民地で似たようなことをしている。自国内では軋轢が生じてしまうが、第3国なら平気ということだ。フランスも中国の資金とともに、汚水処理や通信整備などを拡大したいともくろんでいる。

トランプという共通の敵

独仏は、すでに大きく中国に進出しており、かなりの恩恵にも浴している。もっと中国の市場を開放せよ、マクロン大統領の言葉を借りれば「複線の新しい『絹の道』が欲しい」のであって、一帯一路を否定しているわけではない。

それに、いまはトランプのアメリカという中国と共通の敵がいる。

3月27日付けのルモンド紙社説はいう。「37点にわたる中仏共同声明は、気候変動からイラン核問題に至るまでアンチ・トランプの宣言だと読み取れる」

共同声明では、トランプ政権の出現によって弱体化させられた国連、世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)やG20のテコ入れも盛り込まれた。習主席の提案によるものだ。

アメリカとの距離感はEU全体としても言えることだ。アメリカとの包括的経済貿易協定の交渉は暗礁に乗り上げている。アメリカに進出したヨーロッパの大企業は様々な理由をつけてはアメリカ司法から莫大な罰金や損害賠償を払わされている。輸入自動車に追加関税を課すというトランプの脅しもある。

結局、25日の共同声明で釘を刺した相手は中国ではなく、間接的にイタリアだったといえよう。中国との対決ではなく欧州内における対中主導権争いの1ページに過ぎなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中