最新記事

人権問題

タイで行方不明のベトナム人権活動家、ハノイの刑務所に収監確認 両国治安当局が連携し拉致?

2019年3月22日(金)19時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

友人のアーティストが描いたイラストでは、ナット氏(左)のブログが拘束されていたが…… (c) Trương Duy Nhất via Facebook

<政治亡命のため渡航した国は、一党独裁の母国の治安当局と結託していた──>

タイのバンコクで2019年1月26日以降行方不明になっていたベトナム人の人権活動家でブロガーのトゥルオン・ドゥイ・ナット氏がベトナムの首都ハノイにある刑務所に収監されていることが3月20日に判明した。

ナット氏の家族が刑務所関係者から連絡を受けたもので、米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が伝えた。

ナット氏の消息が明らかになったのは姿を消して以来初めてで、人権団体などでは「とりあえず所在が判明したことはよかった」としているが、タイでの行方不明に関してはベトナムの治安当局だけでなく、タイ警察当局も関係した可能性があり、今後タイ側の説明が求められることにもなりそうだ。

3月20日、カナダを活動拠点としているナット氏の娘、トク・ドアン・トゥルオンさんからRFAへ伝えられた情報によると、ハノイの刑務所関係者からナットさんの妻カオ・チ・クアン・プオンさんに連絡があったという。それによると、ナット氏は1月28日にバンコクで身柄を拘束され、その日のうちにハノイに移送され、それ以降刑務所に収監されているとの説明だったという。

ベトナム中部ダナン在住の妻プオンさんは3月20日にハノイの刑務所に駆けつけて夫ナットさんとの面会を求めたが、刑務所側は「ナット氏の件に関してはまだ捜査が終わっておらず、面会は許可できない」として拒絶されたものの、妻が持参した服や食料などの差し入れ品については受け取ったという。

拉致にタイ警察が関与した可能性も

ナット氏はベトナム国内での民主化要求や人権問題をRFAなどを通じて発信していたことから、当局による逮捕の可能性があるためタイに出国していた。

そしてバンコクにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で政治難民としての手続きを1月25日に申請したことがわかっている。翌26日にバンコク北郊の大規模ショッピングセンター「フューチャー・パーク」のアイスクリームショップ付近で突然身柄を拘束され、以後消息が全く途絶えていた。

目撃証言などからナット氏の身柄を拘束したのはタイ警察の制服を着た人物だったことから、一時ベトナム治安当局者がタイ警察の制服を着用して拉致に及んだ可能性も指摘された。

しかしその後の状況やベトナム治安当局者、人権団体などの情報によると、ナット氏を直接拘束したのはタイの制服警察官で、拉致後にナット氏をベトナム治安関係者に引き渡したものとみられている。

刑務所側の家族への説明では「身柄を確保したのは1月28日」でその日のうちにハノイに航空機を使って運ばれ、「T-16 」という名称の刑務所施設に収監されたとしている。

こうした拉致後の素早い対応などから、タイとベトナムの治安当局間で連携があったことは確実であり、拉致も綿密に計画されたものとみられている。

ナット氏がUNHCR事務所に難民申請に行った直後の拉致でもあり、タイ入国直後からナット氏はベトナム、タイ当局による尾行などの監視を受けていたことは十分考えられるとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに大規

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中