最新記事

ベネズエラ危機

ベネズエラ避難民が語る絶望と希望

Crisis of Confidence

2019年3月15日(金)17時20分
アナ・カリナ・パラシオ(ベネズエラ避難民)

ブラジルの難民支援センターに到着したベネズエラからの難民 Bruno Kelly-REUTERS

<崩壊の危機に瀕したベネズエラから子連れで逃れた女性が明かす、救いのない日々の暮らしと、持ち続けるかすかな夢>

ベネズエラの危機は深まっている。ハイパーインフレ、飢餓、犯罪、病気の蔓延、そして死を逃れるため、何百万もの人々が国外に脱出している。

アナ・カリナ・パラシオも昨年、避難民になった。夫を事故で亡くしたため、妊娠中の身でありながら、幼い息子と逃げ出した。彼女は通行許可証を手に入れ、コロンビアに合法的に入国して国連機関の国際移住機関(IMO)に助けを求めた。

パラシオは現在、国境近くのビジャ・デル・ロサリオにある仮設の救援センターに滞在し、住居と仕事、そして2歳の息子と生後6カ月の娘の子守りを探している。本誌ジェシカ・クウォンのインタビューに応えて、彼女はコロンビアからスカイプ経由で自らの物語を語ってくれた。

***


今回ベネズエラからコロンビアに向かうまで、私は国外に出たことがなかった。それどころか、故郷アラグア州のマラカイの町を離れたこともない。離れたくなかったが、そうしなければならなかった。

ネイルや眉を整える美容の仕事を独立してやっていたが、仕事はなくなった。みんな同じだった。生きるための食料確保が人々の一番の問題になったから。

朝起きると、すぐ食料配給の列に並んだ。肉がないので3食とも野菜。毎日、並んで野菜を手に入れていたが、量は徐々に少なくなり、やがてなくなった。

息子は弱っていったが、医者は薬がないから診てくれない。高い金を払えば別だが、私にはそんな余裕がない。ベネズエラでは生きていけないので、息子とおなかにいる子と共に国を出ることにした。

道中はつらかった。コロンビアが受け入れてくれるかどうか分からないので、私はバスの中でパニック発作を起こした。通行許可証は持っていたが、怖くて死にそうな気分だった。

しかし、幸運にも無事に入国できた。「やった」という思いの半面、不安になった。女1人でやり遂げたことはうれしいけれど、コロンビアに知人はおらず、悪意から近づいてくる人間にどう対処していいか分からなかった。

そこへ救い主が現われた。ある心理学者が、私がコロンビアに落ち着くまで援助すると申し出てくれたのだ。私は着の身着のままで逃げてきた。難民のための一時的な救援センターに滞在しているが、素晴らしい場所で不安はない。食べ物は十分にあるし、職員は手厚く面倒を見てくれる。

最後の夢は子供に託す

もっとも、歓迎してくれる人もいれば、そうでない人もいる。「これを食べて。あとは何が必要?」と手を差し伸べてくれる人もいれば、「難民受け入れには反対だ。ベネズエラ人なんて要らない」と言う人もいる。

ベネズエラの故ウゴ・チャベス前大統領時代の私は若くて勉強に一生懸命で、政治には興味がなかった。次のニコラス・マドゥロ大統領は多くの理由から支持しなかった。仕事はないし、食べ物を得るために来る日も来る日も列に並んでいたのだから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中