最新記事

遺跡

北米に巨大ピラミッド⁉ 失われた巨大都市の謎に迫る

The Lost City of St. Louis

2019年3月4日(月)11時25分
カシュミラ・ガンダー

巨大ピラミッドと墳丘群から成るセントルイス郊外のカホキア遺跡 MICHAEL S. LEWIS-CORBIS DOCUMENTARY/GETTY IMAGES

<1000年前に繁栄し、世界遺産となっているイリノイ州の都市カホキア。10年間の発掘調査で先住民文明の謎が明らかになった>

1000年ほど前、現在の米イリノイ州コリンズビル(ミズーリ州セントルイス郊外)に文明的な都市があったという。人口は推定1万〜3万。人々は草ぶきの家に暮らし、強い興奮剤を愛用し、女神たちを敬い、木製の天文台で星の動きを観測していたらしい。

その都市の中心には高さ30メートルほどのピラミッドがあったようだ。土で造った建造物としてはアメリカ大陸で最大の規模。その周りに広場があり、多くのモニュメントがあった。

繁栄は250年ほど続いた。しかし1300年頃、なぜかこつぜんと姿を消し、今は「カホキア墳丘群州立史跡」と呼ばれ、ユネスコの世界遺産に登録されている。その実態に迫る書籍『北米最古の先住民都市グレーター・カホキア』が先頃刊行された。

考古学者のトーマス・エマーソンらが編纂したこの本は、この10年間の発掘調査を踏まえたもの。1500もの建築遺構と100万を超える石器や銅器などが見つかっていて、先住民の文化に関する従来の学説を覆すものと期待されている。

発掘調査の結果、当時の住民は狩猟採集を主としつつも農耕を行っていた可能性が高いとされる。トウモロコシの栽培を軸とする農業が都市の形成を支えていたのだろう。また茶わん状の粘土製の容器に付着していた植物の残りかすからは、彼らがヤポンノキ(モチノキ科)から採った覚醒作用のある飲み物を愛用していたことが分かる。

おそらく、この都市をまとめていたのは信仰だ。当初は世界の再生と豊穣を祈る信仰だったのだろうが、やがて象徴としての戦士と太陽神の信仰に変わっていったらしい。 「住民は遠くさまざまな場所から集まってきたようだ。この地が霊的な力によって祝福された場所と見なされたからだろう」と、著者の1人であるイリノイ大学のティモシー・パウケタット教授(人類学)は言う。

埋葬されていた数十人の遺体の歯を調べると、住民の少なくとも5分の1は外部からの移住者と分かった。また埋蔵物の多くはこの土地に存在しない材料で作られていた。つまり遠くからの移住者が贈り物を携えてやって来たということだ。海の貝殻やサメの歯も見つかっている。

都市は突然見捨てられた

「カホキアが存在できたのは、そこに300年にもわたり移住者を引き付ける何かがあったからだ」とエマーソンは考える。そういう求心力があってこそ文明は栄えるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中