最新記事

中国

グーグルよ、「邪悪」になれるのか?――米中AI武器利用の狭間で

2019年3月25日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国のメディアは、それに先んじた1月14日に「グーグル(谷歌)によってAIプロジェクトの梯子を外され怒り狂った米国防部が、シリコンバレーでAI人材を探し回っている」というタイトルで、すでに米当局の動きを予見する報道を大きく拡散させている。

彷徨うグーグルの理念「邪悪になるな」

一方、グーグルは、こっそりとAIの軍事利用計画のために大量のクラウドワーカーを雇用していたことが、今年2月5日に明らかになった。The Interceptが、「グーグルはギグ・エコノミー・ワーカーを、異論のあるProject Mavenのために雇用していた」で明らかにした(この報道のタイトルは、筆者が最初にアクセスしてからだけでも、3回にわたって修正されているため、アクセスした時点でのタイトルは、又もや微妙に異なっているかもしれない)。 

「ギグ・エコノミー」とは、ネットを通して単発の仕事を受注する働き方で、「ギグ・ワーカー」は1時間あたり1ドル(時間給110円!)にも満たない低賃金の頭脳労働者として使い捨てにされている。このようなことをしている時点で、既にかなり「邪悪」ではないのか。

2006年から2010年にかけて、グーグルは中国市場に本格参入していたが、中国政府の検閲に従うことを嫌い、「邪悪になるな」という魂を重んじて、中国市場を去った。

あの頃のグーグルは美しかった。

中国の若者はそのグーグルに民主への熱い思いを込めて涙し、別れを惜しんだものだ。

あのグーグルはどこへ行ったのか?

AIの軍事利用という新たな局面に遭い「邪悪になるな」という魂が彷徨っている。

詳細に追いかけてみると、「グーグルAI中国センター」もまたネット上のみで働くギグ・ワーカーを曖昧模糊とした形で募集している痕跡があり、なにやら煮え切らない怪しさが漂っている。AIの軍事利用とは決別してもビジネスチャンスは逃したくないという迷いが、さらなる不透明感を醸し出しているように思う。

なお、中国を去るグーグルに対する2010年における中国の若者の切なる思いは、拙著『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(2011年)で執拗に追いかけた。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中