最新記事

東アジア

予想外に複雑な日中韓の三角関係──韓国は日本より中国に傾く

A TRIANGULAR AFFAIR

2019年2月5日(火)16時10分
ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

北京で会談した文在寅大統領(左)と習近平国家主席(17年) Nicolas Asfouri-Pool-REUTERS

<朝鮮半島統一を望む韓国の焦りを習近平が巧みに利用できるとは限らない>

アジア太平洋地域には、地政学的に微妙なバランスを保つ三角関係がいくつかある。例えば、日米中の三角関係。米中ロの三角関係、米中印の三角関係もある。

そこに近年、新たな三角関係が加わった。日中韓だ。その背景には、中国の台頭と地域経済の統一、核を利用した北朝鮮の瀬戸際外交、ドナルド・トランプ米大統領のギャンブル的な外交など複数の要因がある。

従軍慰安婦問題や徴用工問題をめぐる最近の日韓の対立悪化は、中国の目には、韓国を自らの影響下にたぐり寄せるチャンスと映っているだろう。もちろん中韓の間にも、対立のタネはある。その最大のものは南北朝鮮の統一だ。中国はこれに断固反対している。

朝鮮半島が統一され民主化されれば、中国は北朝鮮という戦略的緩衝地帯を失うことになる。韓国がアメリカと軍事同盟を結んでいることも、中国にとっては厄介な問題だ。韓国が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)を配備して、中国から手厳しい経済報復を受けたのは、さほど昔の話ではない。

だが現時点で、日韓の亀裂拡大は、中国にとっての好機だ。うまく立ち回れば、習近平(シー・チンピン)国家主席は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して一段と大きな影響力を持つようになるかもしれない。そして、それは必ずしも日本の安倍晋三首相にとって不利にはならないかもしれない。

アメリカとの関係悪化を受け、習は最近、安倍に急接近しており、19年中には訪日も計画している。それだけに、たとえ朝鮮半島における中国の影響力を強化するとしても、これまで進めてきた日本との関係修復を無にしないよう十分注意を払うだろう。このため習は、2つの戦略を同時に進めている。日本に対しては、引き続き「仲直りモード」を維持すること。韓国に対しては、なんとか半島統一を実現したい文の焦りを利用することだ。

トランプのギャンブル的試みを別にすれば、国際社会は今も、北朝鮮に対して厳しい態度を維持している。北朝鮮と積極的に関与し続けているのは、韓国と中国だけだ。18年3月以降、文は3回、習は4回、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会談している。習の狙いは、北朝鮮を中国の影響下につなぎ留めておくことだが、文はそれを南北朝鮮の接近を暗に容認している証拠と見なし、歓迎しているに違いない。

中国にとって日本は、依然としてアジアにおける戦略的ライバルだが、韓国は中国の準同盟国か、少なくとも中国の中立的パートナーにできるかもしれない。安全保障の面でも、日本の立場はずっとアメリカに近く、中国の軍事増強を危険視している。これに対して韓国は、中国を軍事的脅威と見なす傾向が小さく、反米感情も強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

人民元相場、米国よりも欧州にとってより大きな問題=

ビジネス

SBG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフへ AI

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズへ追加出資で最終調整=

ワールド

EU、ロシア産LNGの輸入禁止前倒し案を協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中