最新記事

資源

中国が世界の半分を支配するリチウム生産 ボリビア鉱山支援はドイツが勝利

2019年2月3日(日)19時17分

残るリスク

ACIにとって、ボリビアでの事業にはリスクもある。

ウユニ塩湖のリチウム埋蔵量は少なくとも2100万トンと喧伝されているが、モラレス大統領はACIに対して、天然資源の国有化を公約の柱としてきた。ただしボリビア政府当局者は、何か不具合が生じても海外からのウユニ塩原向け投資は保証されると明言した、とACIのシュムツCEOはロイターとのインタビューで語った。

さらに、降雪や降雨によって、ウユニの塩水からリチウムを抽出するために必要な蒸発プロセスが遅延する恐れもある。また、ボリビアは内陸国なので、リチウムの出荷には隣接するチリやペルーの港湾を利用する必要が生じる。

環境を意識したクリーンな技術や設備を供給する同族経営企業のACIには、リチウム生産の経験がない。同社の生産能力を疑問視する業界アナリストもいるが、同社は小規模ゆえに柔軟性が高く、さまざまな分野のパートナーを同プロジェクトに招くことができる、とそうした懸念を一蹴した。

シュムツCEOは、ドイツの大手自動車メーカーとリチウム供給について仮契約を結んでいると語ったが、秘密保持義務を理由に詳細は明らかにしなかった。

BMWは、ACIと予備的な協議を進めているものの、まだ決定には至っていないと語る。フォルクスワーゲン(VW)は、原材料の供給確保と価格安定は重要だが、ボリビアでのリチウム生産は特にハードルが高いと言う。ダイムラーのオラ・ケレニウス取締役氏は「実現したとしても、私たちは参加しない」と語った。

すでに交渉に入っている自動車メーカーは、最終的な契約成立までは、何も公式に認めることができないだろう、とACIは述べている。

リチウム版「グレートゲーム」

リチウム支配を巡る世界的な競争は「グレートゲーム」と呼ばれてきた。これは19世紀、ロシアと英国が中央アジアにおける影響力や支配地域を巡り、争った状況を表現する言葉だ。

ボリビアでのプロジェクトには、同国内に水酸化リチウム生産プラントとEV向けバッテリー製造工場を建設する計画も含まれている。バッテリー製造工場が完成すれば、単なる原材料輸出国という従来の役割からボリビアを脱却させるという、モラレス大統領の野心の実現に一役買うことになろう。

ACIでは、水酸化リチウム製造プラントの年間生産能力を2022年末までに3.5万─4万トンに引き上げたいと表明している。これは世界最大級のリチウム生産企業が運営するプラント生産量に匹敵する。このうち8割はドイツに輸出されることになる。

ボリビアのエチャズ副大臣は、ACIが同国内にバッテリー製造工場を建設する姿勢を見せたことが契約成立の好材料になったと語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米財務長官、トランプ関税を擁護 最高裁の合憲

ビジネス

ECBレーン専務理事、インフレ低下予想に疑問 最近

ワールド

ベセント財務長官、来年の米経済を楽観 利下げの必要

ワールド

トランプ氏2期目は「自国に悪影響」、日豪印で過半数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中