最新記事

恋愛

北朝鮮政府を動かしベトナムに咲いた「30年越しのラブストーリー」

2019年2月18日(月)16時00分

若い2人は同じような緊張の表情を浮かべ、深い茶色の瞳でカメラを見つめている。ファム・ゴック・カインさん(左)がイ・ヨンヒさん(右)と1971年春に撮影した写真。ハノイで12日撮影(2019年 ロイター/Kham)

若い2人は同じような緊張の表情を浮かべ、深い茶色の瞳でカメラを見つめている。ベトナム人留学生の男性は、最愛の女性に出会ったばかりだった。北朝鮮人である女性のほうは、彼を愛することを許されない立場だった。

ファム・ゴック・カインさん(69)が初めてイ・ヨンヒさん(70)と写真を撮ったその日から結婚するまで、31年かかった。北朝鮮政府は2002年、自国民と外国人の結婚を認める異例の措置を取った。

「最初に彼を見た時からかなわぬ愛だと思い、とても悲しかった」。ハノイで2人が暮らすソビエト時代のアパートの一室で、イさんは振り返った。

北朝鮮では不可能な自由をベトナムで享受するファムさんとイさんは、ハノイで今月末に開かれるトランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長の首脳会談で、米朝の敵対関係が解消に向かうことを期待している。

「北朝鮮人なら解決を望んでいる。でも政治は複雑だから」と、イさん。「金委員長がトランプ大統領と会うと最初に聞いたとき、みんな韓国との統一が近いのではないかと考えた。でも1日や2日では実現しない。物事が良い方向に向かうことを願っている」

アジアで最も成長著しい国の1つとなり、国際社会の一員になったベトナムは、孤立と貧困にあえぐ北朝鮮のお手本とみられている。

ベトナムと米国が戦争をしていた1967年、ファムさんは戦後の復興に必要な技術を学ぶため、200人の留学生の1人として北朝鮮に送られた。

数年後、北朝鮮東部の肥料工場で化学技術の見習いをしていたファムさんは、実験室で働いていたイさんに目を止めた。

「あの子と結婚しなければ、と思った」と話すファムさんは、勇気を奮い立たせてイさんに近づき、住所を尋ねた。

イさんは住所を教えてくれた。友人たちから、工場で働いている「ベトコン」(南ベトナム解放戦線)の1人が自分にそっくりだと聞かされ、好奇心がわいた。

「彼を見た瞬間に、その人だと分かった。とても素敵だった」と、イさん。「それまで、みんながハンサムだという人を見ても何も感じることはなかったのに、彼がドアを開けて入ってきた瞬間、私の心がとろけてしまった」

だが、2人には困難が待ち受けていた。北朝鮮では今でも、そしてベトナムでは当時、外国人との交際が固く禁じられていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中