最新記事

中国

米中交渉──中国「技術移転強制を禁止」するも「中国製造2025」では譲らず

2019年2月14日(木)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

従って結論は、「習近平は絶対に譲らない」ということである。

だから米中交渉は長引くだろう。

米中両首脳の交渉術

それでも一つだけ半導体産業で考慮できる余地があるのは、国有企業に対する一点集中的な投資だ。IC(集積回路)基金のほとんどは国有企業に投入している。

にもかかわらず、成長したのは基金を投入していない民間企業のHuaweiだ。

これでは国の投資が無駄になっている。「改革開放経済を深化させる」という習近平政権の謳い文句とは逆の方向に動いているのだ。まさにトランプが要求している「中国経済の構造改革」を回避しているツケが「民間企業Huaweiの成長」に現れているのである。

しかし構造改革などを真に実行したら中国共産党による一党支配体制が崩れていく。

そこで例えばだが、おそらく、国有企業Unigroup(ユニグループ、清華紫光集団)傘下のスプレッドトラム(Spreadtrum)辺りへの湯水のような投資を、少し調整する可能性は否定できない。スプレッドトラムに関しては主として拙著のp.74~p.80に書いた。説明し始めると、また長文になるので、ここでは省略する。

何れにせよ、習近平はハイテク戦略を撤回などは絶対にしないが、中国にとっても合理的な範囲内で、トランプの要求に応えたかのごとき形を取り、それ以上トランプが言えないようにするという習近平の交渉術が透けて見える。

一方、交渉術にかけてはトランプも負けてはいない。

「3月1日までに合意に至らなければ」と脅しをかけて、習近平が少し譲歩を見せると「米朝首脳会談のあとに、米中首脳会談があるかもしれない」ようなことを匂わせておいて、米中次官級の通商交渉に入ると「いや、今回は習近平国家主席に会うことはないだろう」と否定して圧力をかける。それでいながら本日14日から始まる閣僚級協議に差し掛かると、今度は「合意に近づいているならば(3月1日という期限を)少し延ばしてもいい」とした上で「ある時点で習近平国家主席と会い、交渉団が合意できなかった課題を協議して解決するだろう」などと米中首脳会談をほのめかす。

「あなたが譲歩するなら、会ってもいいですよ」ということだが、習近平としては、「別に会いたいわけではない。私は全人代で忙しい」といったところだろう。

実際、習近平にとって会う会わないなど、どうでもいいことだ。そこはわが国の首相とは違う。会うために譲歩したりなどしない。中国はもっと実利的で、アメリカを乗り越えようと行動するのみだ。トランプには選挙があるだろうが、習近平には一党支配体制を維持できるか否かという生命線がある。そのカギを握っているのが「中国製造2025」なのである。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、現時点でインフレ抑制に利上げ必要ない=クリ

ビジネス

テスラ株主、マスク氏への8780億ドル報酬計画承認

ワールド

スウェーデンの主要空港、ドローン目撃受け一時閉鎖

ビジネス

再送米国のインフレ高止まり、追加利下げに慎重=クリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中