最新記事

ロシア

「ノビチョク事件」の風刺ゲームがロシアで完売 英国人の怒りを買う

2019年1月31日(木)17時30分
松丸さとみ

英国人の怒りを買っている「ノビチョク・アタック・ボードゲーム」Euronews-YouTube

<ロシアのおもちゃメーカーがこの事件を題材にしたボードゲームを製造し、英国人の怒りを買っている>

死者も出たノビチョク事件

昨年3月、英南部ソールズベリーで神経剤ノビチョクに触れ、かつてロシアと英国の二重スパイをしていたロシア人のセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんが意識不明の重体に陥った事件があった。その数カ月後には、同じくソールズベリーで英国人のドーン・スタージェスさんが誤ってノビチョクに触れて亡くなった。

ロシアのおもちゃメーカーがこの事件を題材にしたおもちゃを製造し、英国人の怒りを買っている。

おもちゃは「ソールズベリーにいる我が仲間たち」という名称で、英ガーディアン紙によるとロシアのモスクワにあるおもちゃメーカー、イグロランドが作ったものだ。昨年12月に5000個が発売されたが、すでに完売している。

カラフルなボードゲームで、ボードの片隅にはスパイらしき男性2人が描かれている。ガーディアンによるとこれは、ノビチョクを使ってスクリパリ親子を暗殺しようとしたとされているロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の職員アレクサンドル・ペトロフ容疑者とルスラン・ボシロフ容疑者を模したものだ。

また反対側の片隅には、毒薬を示すドクロマークが付いた香水のボトルも描かれている。実際の事件でノビチョクは香水のボトルに詰めて持ち運ばれたと考えられており、スタージェスさんの恋人がこのボトルを香水と勘違いしてスタージェスさんにプレゼントし、スタージェスさんは手首にかけて死亡した。

自国スパイが犯人と考えるのはロシアのわずか3%

ゲームは、プレーヤーが2人組になってモスクワを出発。ミンスク、テルアビブ、ジュネーブ、ロンドン、パリなどの都市を経てソールズベリーに到着すると「あがり」となる。これらの都市は、実際に容疑者2人がソールズベリーに到着する前に立ち寄ったとされている。ゴールのソールズベリーには、観光名所のソールズベリー大聖堂が描かれているほか、防護服を着た人物の写真が掲載されている。この写真は、昨年3月のスクリパリ親子暗殺未遂事件で英国の警察が現場で対応している時のものだという。

ノビチョク事件をめぐっては、英国側がロシア側のしわざとしてGRU職員の容疑者2人に逮捕状を出した。また、英国のみならず欧州や米国もロシア外交官などを国外へ追放する措置を取った。一方でロシア側は、一貫して関与を否定しており、英国の外交官をロシアから追放する報復措置を取った(昨年3月30日付ガーディアン)。さらに、容疑者2人もロシア政府所有の英語メディアRTのインタビューを受け、あの時ソールズベリーにいたのは「単に大聖堂へ観光に行っただけ」と容疑を完全否定している。

ガーディアンによると、昨年10月に独立系の調査機関がロシアで行なった世論調査では、ノビチョク事件がロシア人スパイの犯行だと信じているのはわずか3%だけだった。しかし欧米ではロシアの犯行と決めつけて報じられていることで、ロシア国内ではある意味、ノビチョク事件が「ジョーク」になっているのだという。昨年の年末にはRTが各通信社に対し、クリスマスの贈り物としてソールズベリー大聖堂のチョコレートを送ったほどだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中