最新記事

米朝関係

なぜ今?トランプ政権が北朝鮮に対する人道支援制限を緩和

U.S. to Ease Limits on Humanitarian Aid to North Korea

2019年1月15日(火)18時00分
コラム・リンチ

この頃はまだ、訪朝すれば非核化で何か収穫があると思っていたポンペオ米国務長官(2018年7月6日、北朝鮮平壌) Andrew Harnik-REUTERS

<アメリカを非難する国連や支援団体からの圧力に配慮したのか、それともこれで金正恩から譲歩が引き出せると思ったのか?>

外交筋および複数の支援団体によると、米国務省は、北朝鮮に対する人道支援に課していた制限のうち最も厳しい一部を緩和することを決めた。これにより、人道支援に携わるアメリカ人の渡航制限が解除されるほか、これまで禁止されてきた人道支援物資も一部解禁になる。

この決断は1月9日に、アメリカの北朝鮮担当特別代表スティーブン・ビーガンによって支援機関に伝えられた。国連と支援機関はこの数カ月、北朝鮮に対するアメリカの経済制裁が、コレラなどの感染症から人命を救う活動さえ危うくしている、と米政府を批判してきた。

今回の動きは、トランプ政権が北朝鮮に対する「最大限の圧力」を数カ月ぶりに緩和する大幅な進歩だ。しかし、これが北朝鮮との非核化交渉を進展させるための善意の政策なのか、あるいは人命をも脅かすアメリカの制裁に対して強まる国際的な圧力に配慮したものなのか、定かではない。

米国務長官マイク・ポンペオは2018年夏、米朝交渉が一向に進まないことに業を煮やし、北朝鮮への支援物資の量を大幅に制限した。その結果、手術機器や児童養護施設向けのステンレス製牛乳容器、結核やマラリア治療のための援助物資などの輸出は、米当局の手で日常的に遅らせられていた。

だがこうしたやり方は人道支援機関からの反発を招き、アメリカは国連でも孤立した。

金正恩は軟化するか?

ユニセフ(国連児童基金)のオマール・アブディ事務局次長は、安保理制裁委員会に宛てた12月10日付けの非公開書簡で次のように抗議した。アメリカが救急車や発電機などの医療支援物資や救援物資を留め置いているために、病気と闘うユニセフの活動に支障が生じている。「必要な物資が至急発送されなければ、ユニセフが北朝鮮で行っているプログラムが危機に直面しかねない」と。

ブルッキングス研究所の北朝鮮専門家で元CIAアナリストのジュン・パクは、制裁緩和を人道的な見地から評価するが、これで非核化に関する交渉が進展する可能性は低いという。「人道支援活動を再開するのは正しい」と、パクは言う。「しかし、この程度で金正恩(朝鮮労働党委員長)が『ポンペオ長官と話し合おう』というかとなると、とても怪しい」

トランプ政権が北朝鮮に対する圧力を一段と強化したのは、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したのを受けて、国連安保理が2017年12月に追加制裁決議を採択したときだ。北朝鮮に圧力をかけて、核兵器開発を撤廃するための交渉に同国を引き込むためのこの制裁は、北朝鮮のエネルギーならびに輸出部門を対象にしていたが、人道支援物資を届けることに関しては、安保理制裁委員会の承認があれば、制裁から免除されていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=

ワールド

インド製造業PMI、6月は14カ月ぶり高水準 輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中