最新記事

アフリカ

希少なアフリカゾウを殺戮する側の論理

License to Kill

2019年1月15日(火)17時00分
レイチェル・ヌワー(科学ジャーナリスト)

残ったのはライフルだけ

イサは仕事にありついた。総勢4人の一団はチャド領に入り、2週間後にエバンに到着。4日間で9頭の象を倒した。順調なペースだった。

しかしザクーマ国立公園のレンジャー部隊に野営地を急襲され、4人は逃走。当初は野鳥やガゼルを撃って飢えをしのいでいたが、先が見えない。「だからレンジャーたちを襲うことになった」とイサは言う。

証言によれば、イサ自身は殺人に加わらず、留守番をしていた。すると仲間3人が馬や武器、食料を奪ってきた。その後スーダンに戻ったが、戦利品の分配をめぐって口論になった。

結局、イサは見捨てられた。手元に残った強力なライフルは売り飛ばした。それが今回の密猟で手にした唯一の戦利品だったという。「象の密猟と、ザクーマの監視員たちの死に関与した罪は認める」。彼はそう告白した。

後になってその証言の大半は事実であることが裏付けられた。イサは軍事訓練キャンプにある刑務所に入れられたが、1カ月後に脱獄した。家族が賄賂を支払い、政府が関与しているという噂が流れた。

「部外者には分かりづらいだろうが」とリアンは言う。「私たちから見ると、裏金で脱獄を黙認するような政府は役立たずで、腐っている。しかし現地の人たちがどう考えているのかは分からない。それを理解できるのは現地の人だけだ。欧米の法制度を当てはめても、役には立たないんだ」

イサの行方は分からず、法廷は彼を不起訴にした。スーダンに戻った仲間3人も法の裁きを免れたという。

エバンで殺害されたレンジャーたちの息子の1人、イサ・イドリス(21)はいま父親の後を継いでいる。「父は保護区を監視していて殺された」。物腰が柔らかくてシャイなイドリスは言った。「象を守ろうとして命を落とした。父は、よそ者がやって来て象を殺しまくるのが許せなかった」

「今は私がここで働く。それが父の望みだったと思う」とイドリスは言う。「いずれは自分の息子にもここで働いてほしいと思う。それが一番だ」

(本稿はヌワーの新著『密猟──野生生物不法取引のダークな世界の内側』からの抜粋)

<本誌2019年01月15日号掲載>

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中