地経学の盲点「1回きりの武器」関税と輸出規制の限界
THE MIRAGE OF GEOECONOMICS

北京の地質・地球物理研究所に展示されているレアアース鉱物 VCGーREUTERS
<関税や輸出規制は敵国への圧力として好まれるが、それは本当に有効なのか? 米中の関税応酬やレアアース規制の実例が示すのは、こうしたツールの限界だ>
貿易は自由であるほどいい──数年前までは、それが世界の常識だった。関税は低めに推移し、各国政府は外国からの投資を誘致し、技術移転は繁栄を拡大する道と見なされていた。だが、時代は変わった。
軍事戦略研究家のエドワード・ルトワックが、地政学に経済的な側面を加えた「地経学」という言葉を生んでから35年。その概念が再び重みを増している。多くの国で、貿易政策は地政学の視点から考えるべきだという見方が広がっているのだ。
ルトワックが指摘したように、地政学的な紛争はゼロサムゲームだ。一方が得をすれば、他方が損をする。だが貿易は基本的に、双方に利益をもたらすウィンウィンのゲームだ。だから敵を弱らせる手段として貿易を使おうとすれば、必ずその性質の違いに突き当たる。
例えばトランプ米大統領が中国に対して取ろうとしている関税措置の影響をシミュレーションすると、アメリカのほうが中国より大きな損失を被ることが分かる。理由は単純。アメリカは世界経済の約4分の1、中国は5分の1を占めるが、輸出では中国がアメリカをやや上回る。
しかも、中国の輸出の約8割はアメリカ以外が相手だ。
つまりアメリカには中国に対して、重大な経済的損害を及ぼす力がない。しかし中国に高関税を課せば、米国内の企業や家庭は輸入品の価格上昇に見舞われる。おそらくこのことが決め手となって、トランプは中国との「休戦」に合意した。