最新記事

韓国

日韓「レーダー照射問題」の背後にある韓国政治の闇

2019年1月7日(月)18時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅大統領 Edgar Su-REUTERS

日韓の「レーダー照射問題」が混迷の度を深めているが、こうした問題の理想的な解決策は、双方の実務者が「現場で何が起きたか」を互いに情報を出し合って事実を見極め、必要なら再発防止策を講じる――という形にあったはずだ。しかし、今回の問題はすでに実務レベルを飛び越えて政治問題化し、さらには世論化してしまっている。

北朝鮮まで「韓国は正気か」

そうなってしまった理由を探ってみたところ、日韓の情報関係筋から次のような解説を聞いた。

「韓国は、国軍機務司令部が解体されてしまったのが痛かった。そのため現場で何が起きたかを知るために、現場からの任意の報告に頼ってしまっている」

韓国国防省は昨年9月1日、軍の情報機関である機務司令部を解体し、新たに設置された軍事安保支援司令部の発足式を開いた。機務司令部は、朴槿恵前政権下で権限を越えて戒厳令布告を検討する文書を作成していたことが判明し、文在寅大統領が解体と再編を指示していた。

国防省直轄の機関だった機務司令部は、軍に対するスパイ行為を摘発する「防諜」が最大の任務だったが、それ以外にも軍事と安保に関わる様々な問題について調査し、大統領に報告していた。

そして、その役割が拡大解釈され、民間人に対する不正な査察も行っていた。2014年に修学旅行中の高校生ら約300人が死亡した旅客船セウォル号の沈没事故で、世論の沈静化を狙い、遺族や同級生らを監視していたのが典型的な例だ。まさしく、「韓国政治の闇」の部分である。このような動きは当然ながら、世論の強い反発を誘った。

保守政権時代の積弊(積み重なった弊害)清算を掲げた文在寅政権としては、機務司令部にメスを入れないわけには行かなかっただろう。ただ、機務司令部も不正だけを行っていたわけではない。

「今回の『レーダー照射』のような問題が持ち上がれば、機務司令部が大統領の意を受けて『捜査』にも似た客観的調査を行い、大統領に報告していた。そういった取り組みなしに、任意の報告に頼ってしまうと現場の『言い訳』や『保身』が入り込む余地が出来てしまう」(前出・情報関係筋)

機務司令部の後身たる軍事安保支援司令部が発足しているものの、まだ十分に機能していないということなのだろうか。

朴槿恵前大統領から文在寅大統領への交代に伴い、韓国の政権は保守から進歩に大きく舵を切った。舵の切り方が大きいほど、社会や国際関係に現れる歪みが大きくなる。あの北朝鮮までが、「韓国は正気なのか」とのけぞるほどだ。

(参考記事:「韓国は正気なのか!?」文在寅政権に北朝鮮から非難

しかし、それこそが韓国政治の今の現実であり、この現実は簡単には変わらない。果たしてこの現実は、北東アジア情勢にどのような影響を与えていくのだろうか。

(参考記事:日米の「韓国パッシング」は予想どおりの展開

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-イラン、インド船籍ガスタンカー

ワールド

イラン新指導者、負傷で姿見せない公算 外見損傷か=

ワールド

キューバ、米と協議開始 石油封鎖の影響深刻化

ビジネス

米個人消費1月堅調、PCE価格指数前年比2.8%上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    北極海で見つかった「400年近く生きる生物」がSNSで…
  • 9
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 10
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中