最新記事

中国

Huaweiの任正非とアリババの馬雲の運命:中共一党支配下で生き残る術は?

2019年1月21日(月)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

しかしHuaweiは「中国製造2025」の半導体領域におけるトップランナーだ。これを潰すわけにはいかない。それでもハイシリコン社製の半導体チップを外販させ、国有企業の方が優勢である状況を創りたいと、習近平は思っている。

その意味でアメリカのHuawei叩きは、習近平に絶好のチャンスを与えたということができる。

初めて現れたHuaweiの真相を語れる日本の中国研究者

1月17日のNews Socraで配信された「トランプ政権のファーウェイ叩きのパラドックス」を読んで驚いた。ここまで正しくHuaweiの真相を知っている中国研究者を発見したのは初めてのことだ。執筆者は元日本経済新聞論説委員兼編集委員で亜細亜大学教授の後藤康浩氏。

日本語なのでリンク先をご覧くださればお分かりいただける通り、後藤氏は冒頭で「米中経済戦争のなかで、トランプ政権から集中砲火を浴び、米国だけでなく日本を含む同盟国の市場から排除されつつある中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)についてほとんどの報道は先入観に支配され、本質を見誤っている。ファーウェイは中国企業のなかで共産党の支配を巧みに回避してきた民間企業の代表だからだ」と書いておられる。

その証拠の一つとして、『下一个倒下的会不会是華為(次に倒れるのはファーウェイか)』(リンクは筆者)(邦訳『冬は必ずやって来る』)という本を挙げている。

この本は「如何にして生き残るか」がテーマとなっており、言外に「どんなに中国政府に虐められても」を暗示している。後藤氏が書いている通り、「中国共産党に優遇されてきた国有企業なら絶対に出てくる言葉ではない」のである。後藤氏はHuaweiがどれだけ中国政府に冷遇されたかを述べ、最後に「今回の事件で中国政府・共産党は全力を挙げてファーウェイ擁護に乗り出しているが、それはこの機に乗じてファーウェイなど成功した民間企業への影響力を高めようとしているだけだ。国有企業優先の習政権にとって米国のファーウェイ叩きは民間企業支配の千載一遇のチャンスなのである」と結んでいる。

全くその通りで、拍手喝采を送りたい。

日本にこのような研究者がおられることを知らなかったことを恥じるとともに、ここまで正しく中国の真相を捉えておられる後藤氏に心からの敬意を表する。筆者が尊敬できる中国研究者が現れるということは滅多になく、こんなに嬉しいことはない。

後藤氏の分析が如何に正しいかを、客観的事実に基づいて証明するために、2009年8月17日に中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」に掲載された「中国金融60年大事記之1993年」をご紹介しよう。

このページの4月のところをご覧いただきたい。

国務院弁公庁は、国家体改委、国家経貿委、国務院証券委による「内部職工による持ち株制度という、規範に沿わないやり方を直ちに禁止することに関する意見」を発布したとある。

これこそが、<Huawei総裁はなぜ100人リストから排除されたのか?>に書いた、ZTEの内部告発によって中国政府がHuaweiを潰そうとした何よりの証拠なのである。

つまりHuaweiは中国政府に虐められ、潰されそうになりながらも「生き残ってきた」。それが本のタイトルに現れている。本を貫いている精神は「顧客第一主義」だ。

◆世界各国支社における産業スパイは別

但し、先般、ポーランドで逮捕されたHuawei社員の産業スパイのような類は、また別だ。Huaweiは世界170ヵ国にわたって支社を持っている。各支社の社員が産業スパイをやっていないという保証はない。ポーランドで逮捕されたHuawei社員に関して任正非は「本社とは関係がない」として直ちに解雇したようだが、なんと言っても逮捕された中国人社員は長年にわたって駐ポーランドの中国大使館に勤めていた人物だ。中国政府から派遣されてHuaweiに潜り込みHuaweiに対するスパイ行為を兼ねた二重スパイであった可能性さえある。事情は複雑だ。任正非は各国末端における詳細な事情まで掌握はできていないだろう。

少なくとも各国支社は互いに競争し合い、業績を上げようとしているから、その国における産業スパイをやっている可能性は低くないということは言えるのではないだろうか。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀の国債買い入れ前提にせず財政政策運営=片山財務

ビジネス

中立金利は推計に幅、政策金利の到達点に「若干の不確

ワールド

米下院補選で共和との差縮小、中間選挙へ勢いづく民主

ビジネス

米ロッキード、アラバマ州に極超音速兵器施設を新設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中