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国籍

国籍が国際問題になり得るのはなぜか──国籍という不条理(3)

もちろん国家主権の尊重に基礎を置く国際秩序そのものも歴史的産物であり、また個別の国家はこれまでも消滅したり分裂したりを繰り返してきた。また共存のための制度も、主権国家システム以外に論理的に考えられないわけでもない。

しかし、巨大な世界帝国でも誕生しない限りは、あちらこちらにほころびのある領域主権国家秩序をやりくりする以外に現実的な方法がないとするのなら、どの国家に帰属するのかによって、人の運命が左右される不条理は今後も続くとみるべきであろう。

同時に、人々がますます活発に移動する現代の条件下では、文化的にも法的地位の面でも、多様な人々が国内に居住し共存することを前提に、国家は制度を設計・運営することが求められ、社会も同質性を前提としては立ちゆかなくなるであろう。もしそうした課題を国家が管理できなくなれば、世界は多文化主義の楽園に至るのではなく、おそらく無政府的な混乱に陥るだろう。

[注]
(2)こういった事例については、拙著『越鏡の国際政治』(有斐閣、2018年)の三章および四章で、より詳しく論じた。

※第1回:国籍売ります──国籍という不条理(1)
※第2回:二重国籍者はどの国が保護すべきか?──国籍という不条理(2)

田所昌幸(Masayuki Tadokoro)
1956年生まれ。京都大学大学院法学研究科中退。姫路獨協大学法学部教授、防衛大学校教授などを経て現職。専門は国際政治学。著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』(編著、有斐閣)など。

当記事は「アステイオン89」からの転載記事です。
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 アステイオン編集委員会 編
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