最新記事

監督インタビュー

元中国人・李小牧の立候補ドキュメンタリー『選挙に出たい』の監督が使えなかったシーンとは

2018年12月4日(火)16時00分
大橋 希(本誌記者)

新宿区議選に立候補した「元中国人」の李小牧(右)

<15年の新宿区議選に挑戦した「歌舞伎町案内人」を追った作品から見えてくる、日本人から元中国人への応援とバッシング>

本誌サイトのコラムニストであり、「歌舞伎町案内人」として知られる中国出身の李小牧。彼が2015年2月に日本国籍を取得し、4月の新宿区議選に立候補したときの様子を記録したドキュメンタリー映画『選挙に出たい』が12月1日に日本公開された。

映画では選挙の暗黙のルールに戸惑う姿や街頭演説でのハプニング、推薦を受けた民主党とのやり取りなど、笑いもあれば、しみじみさせられる場面も。監督は今年2月まで日本に長年暮らしていた中国人の邢菲(ケイヒ)だ。「いろいろなメッセージが入っている作品なので、見る人それぞれの立場でピンとくる点について考えてもらいたい」という彼女に、本誌・大橋希が話を聞いた。

***

――なぜ彼の選挙活動を追いかけようと?

中国人の友人から李さんが出馬することを聞き。面白いなと思って会いに行った。李さんの名前は知っていたが、それまで会ったことはなくて。撮影を始めたのは、14年の9月頃だった。

――第一印象は。

「面白い人」ですね。不真面目なところもあるけど、まあ、面白い人。

――彼が立候補した理由は、外国人や少数派の声を代表したいなどいろいろあると思うが、「中国でできないことをやる」というのが特に大きな動機のように思えた。

うーん、「父親ができなかったことを日本でやってみよう」という気持ちは強かったんじゃないかな。そうした個人的な思いが強かったようには思う。

映画の中で彼が、妻から「あんたはただの目立ちたがり屋だと言われた」と言う場面がある。私は今がチャンスだと思って、「実際そうなんですか」と聞いてみたら、李さんは「そうとも言えるが、それだけじゃない」と答えた。半分は(政治を志して失敗した)父親ができなかったことをやってみよう、もう半分は自分の野心だ、と。

撮影を始めた当初は私も「野心家だから出ようと思ったのではないか?」という疑問があった。でも、それを尋ねるのは失礼に思ったし、撮っているうちに本人からそういう話が出たときにちゃんと聞いてみようと思った。

senkyo181204-keihi.jpg

長年、日本に暮らした経験がある中国人監督の邢菲(ケイヒ) Yoshihiro Nagaoka/Newsweek Japan

――多くの日本人も知らないような選挙の裏側も分かる。あなたは撮影してみて、どんなことに気付いた?

それはいろいろあり過ぎるけど(笑)......。まずは選挙のこと。李さんに初めて会いに行ったときは、新宿区議会選ということくらいしか知らなかった。李さんは、今までに中国出身の挑戦者は何人かいたけどみんな落ちてしまった、私が当選したら初の中国出身の日本の政治家になる、世界的なニュースになると言っていた。それを聞いて、「あ、当選したら歴史的な事件になるんだ。成功しても失敗しても、歴史的な何かを記録する意味では価値があるな」と思ったんですね。

撮り始めてからは、いろんなルールを知ることになった。例えば撮影している間に李さんからコーヒーでもおごってもらうと、彼に迷惑をかけることになるから、絶対そうならないようにした。李さんにおごってあげるのは大丈夫だけど、彼からおごってもらうのは絶対にだめ。ルール違反にならないように、李さんと一緒に勉強していった。

あとはやっぱり、李さんが叩かれているところもあって......「中国人はそんなに嫌われているんだ」と、結構ショックだった。自分は知らなかったんですね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱重の4━9月期営業益86.7%増、防衛・宇宙な

ビジネス

ボーイングのスト終結、賃上げ案を承認 6日にも生産

ビジネス

モルガンS、中国で先物事業の認可取得 米大手で2社

ビジネス

任天堂、通期営業益予想3600億円に下方修正 スイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 2
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王子の映像が話題に...「不幸なプリンセス」メーガン妃との最後の公務
  • 3
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄道計画が迷走中
  • 4
    「生野菜よりも、冷凍野菜のほうが健康的」...ブロッ…
  • 5
    ネアンデルタール人「絶滅」の理由「2集団が互いに無…
  • 6
    在日中国人「WeChatで生活、仕事、脱税」の実態...日…
  • 7
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 8
    「これぞプロ」 テイラー・スウィフト、歌唱中のハプ…
  • 9
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 10
    NASA観測が捉えた「アトラス彗星の最期...」肉眼観測…
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 5
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 6
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 7
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 8
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    「第3次大戦は既に始まっている...我々の予測は口に…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 7
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中