最新記事

テクノロジー

アメリカ大陸の東西を3時間で結ぶ、静かな超音速旅客機をNASAが開発中

Lowering the Boom

2018年12月25日(火)15時30分
ウィリアム・マンセル

NASAとロッキードが開発中のX59は音の増幅を抑える細身のデザイン NASA

<超音速に付きものの大音響を低減して、米本土を3時間で横断する航空機が開発中>

米本土の東西両岸を結ぶ航空路線は、アメリカでも最大級の混雑ぶり。平均的な日でニューヨークとロサンゼルスの間を、100便以上が飛んでいる。

所要時間は約6時間。乗客はその間、快適とは言い難い空間に閉じ込められている。

もしも所要時間を半減させる技術が既にあるのに、航空会社が使うことを禁止されていると分かったら? ただでさえ耐え難い時間が、さらに耐え難くなることだろう。

技術の使用を禁じられている大きな理由は騒音だ。飛行速度が音速(時速約1225キロ)を超えると、航空機は轟音をとどろかせる。このため連邦航空局は73年、超音速機が米本土の上空を飛行することを禁止した。

「ソニックブーム」と呼ばれるこの大音響の問題が、ついに解決されるかもしれない。今年4月、NASAはロッキード・マーティン社と2億4750万ドル規模の契約を締結。静かな超音速機「X59QueSST」の開発に取り組むことで合意した。

X59は乗客を運ぶ旅客機ではない。国内外の規制当局に対し、超音速機でも従来の航空機を超えるような爆音を出さないことを証明する「試験機」だ。

プロジェクトが成功すれば、規制の改正やより高速の商用超音速機の実現につながるかもしれない。NASAの設計案では、機体は音の増幅作用を減らす細身の形状になっている。

11月初旬から2週間にわたり、NASAはテキサス州の港町ガルベストンで、ソニックブームに対する人々の反応を調査する試験を実施した。戦闘機F/A18ホーネットの発展型(X59と同様にソニックブームを出す)を音速で急降下させた上、地上にいる500人に騒音についてアンケートを行った。

温暖化ガスは増えるが

NASAとロッキードは、このデータを共有。ロッキードは来年1月にX59の建造に着手し、21年には試験飛行を行う意向だ。NASAで商用超音速技術計画を統括するピーター・コーエンは、最終的には最大100人が乗れる超音速旅客機が実現する可能性があると言う。

この技術の開発には、地球温暖化の原因である二酸化炭素排出量のさらなる増加につながるとの批判もある。NASAとロッキードは、超音速機の騒音が許容範囲であることを規制当局に証明できたら、環境面の問題解決に取り掛かるとしている。ロッキードで X59 プロジェクトを統括するピーター・アイオシフィディスが言うように、まずは騒音を下げることを優先するわけだ。

超音速機の国内便が実現しても、少なくとも当面は、利用客は裕福なビジネス客に限られるだろう。「娯楽目的の旅行ではなく、迅速な移動手段が必要なビジネス客向けだ」と、スパイク・エアロスペース社のビク・カチョリアCEOは言う。同社は海上を飛ぶ超音速機を開発中だが、定員はわずか18人だ。

しかし「普及すれば、価格も下がる可能性がある」と、アイオシフィディスは言う。思えば、歴史上の大半の発明はそうだった。

<本誌2018年12月25日号掲載>


※12月25日号(12月18日発売)は「中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃」特集。あなたの知らない急成長動画SNS「TikTok(ティックトック)」の仕組み・経済圏・危険性。なぜ中国から世界に広がったのか。なぜ10代・20代はハマるのか。中国、日本、タイ、アメリカでの取材から、その「衝撃」を解き明かす――。

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中