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カルロス・ゴーン逮捕に見る日本の司法制度の異常さ

2018年12月7日(金)18時58分
レジス・アルノー(『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員)*東洋経済オンラインからの転載

東京拘置所には、被勾留者のほか、受刑者や死刑囚も収容されており、死刑執行室もある。小菅は、過去に逮捕された著名な人物たちが全員行き着いた場所だ。ロッキード事件で名誉を失った田中角栄は、1976年にここに入れられた。ソビエト連邦のスパイだったリヒャルト・ゾルゲの絞首刑が行われたのもこの拘置所(当時は豊島区西巣鴨)だ。オウム真理教の教祖、麻原彰晃の絞首刑も、2018年7月6日にここで執行された。

複数の勾留経験者によると、小菅の体制はとりわけ細かく体系化されており、隅々まで行き届いた監視のおかげで身体的な暴力は発生しない一方、精神的なプレッシャーを感じないときはない。小菅に到着した被勾留者は、まず一連の質問に答えなくてはならないのだが、異なる刑務官から同じ質問が繰り返される。勾留した人物がウソをついていないかを確認するためだ。おそらく、こうした質問の中で最も不条理なものは次のようなものだ。「今、何か不安がありますか?」。

裸にされて、絵を描かれる

「ゴーン氏は厳しい身体検査を受けなければならない。まず身体的特徴で3つのことがチェックされる。入れ墨を入れているかどうか。指つめをしていないか。そして男性器にボールを入れているかどうか。つまり暴力団の人間が受けるような検査を全員が受けなければいけない。これは非常に侮辱的だ。そして、完全に裸にされ、体にケガがないかどうかを調べ、絵を描かれる」と、自身も東京拘置所で512日間を過ごした作家の佐藤優氏は話す。

通常の被勾留者が利用する畳の独居房の広さは約3畳。「ゴーン氏の部屋には、おそらく監視カメラとマイクが付いているのではないか」と佐藤氏は見る。部屋には布団、小さなテーブル、そして座布団があり、壁には流しがついている。お皿とお椀が1枚ずつ与えられる。鏡はない。正面ドアには明かりを取るための穴が開いており、食事を出し入れする小窓が付いている。部屋に暖房器具はない。

勾留者は午前7時ごろに音楽で起こされる(佐藤氏によると、ウインナ・ワルツだった)。自分で布団を畳んだ後、刑務官から「あなたの番号は?」と聞かれ、それに答える。同じ質問を1日に2回尋ねられる。「ゴーン氏は重要人物のため、番号は0か5で終わるはずだ」と佐藤氏は言う。

朝食は、ご飯とみそ汁。器は洗ってから刑務官に返す。次は運動の時間だ。数分間だけストレッチを行う。朝にはラジオを45分聞く。昼食時にはNHKのニュースが流れているが、「ゴーン氏に関するところは消されているのではないか」と佐藤氏は見る。昼食後は昼寝をする。しかし、布団の上ではなく畳の上で、だ。入浴は週に2、3回できる。

頭から50cm先には正面ドアがあり、体を覆うのはぺらぺらのシーツだ。午後4時20分になると夕食が支給される。通常は新聞や本を読むことができる。本にメッセージが書き込まれていないかを刑務官が確認した後であれば、本を受け取ることができる。ゴーン氏は本を受け取ることはできるが、新聞を読むことは許されていないと見られる(弁護士が面会中に読ませることは可能)。

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