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日米関係

安倍政権、F35を総額1兆円で100機導入へ トランプの通商圧力の緩和を期待

2018年12月4日(火)17時20分

トランプ大統領の心証好転狙う

しかし、複数の政府・与党関係者は、日本を取り巻く安保・防衛環境の悪化だけでなく、日本外交の「基軸」である通商・外交を包含した対米関係を戦略的に見て行った高度の政治的な決断であると明かす。 

年明けからスタートする日米通商交渉の前提として、今年9月の日米首脳会談後に発表された共同声明では「交渉結果が、米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること」という文言が明記された。

日米通商交渉に詳しい複数の関係者は、年間約7兆円の対日貿易赤字のうち、4兆円が自動車輸出が占め、米国からみれば、牛肉や防衛装備品の輸出拡大よりも、自動車輸入の削減が、より効果的だと映っていると指摘する。

阿達雅志・国土交通大臣政務官は11月12日の講演で、日米交渉は「日本から米国への年174万台の自動車の輸出。これを何とか減らせという話になると思う」と指摘した。

ハガティ駐日米大使も11月16日、日本記者クラブで講演・記者会見し、米国の対日貿易赤字削減のためには、日本メーカーによる自動車輸出削減や現地生産の拡大、米国車の輸入拡大、農産品の輸入拡大のいずれが最重要かとの質問に「大変複雑な質問だが、答えは単純で、それらすべてが必要だ」と述べた。

こうした中で、F35の大量購入を表明すれば、交渉の行方を左右するトランプ大統領の「心証」を好転させ、日米通商交渉にもプラスに働くとの思惑が、日本政府内で台頭している。

実際、先の20カ国・地域(G20)首脳会議の合間に開かれた日米、米独の首脳会談を比較すると、「謝意」を表明された安倍首相とは対照的に、メルケル独首相はトランプ大統領から対独貿易赤字の大きさに対し、ストレートに不満を表明され、明暗を分けた。

ただ、F35購入が、米国の通商圧力にどの程度の直接的な効果があるのか、楽観的な見方を戒める声も政府内にある。

茂木敏充経済再生相は、4日の閣議後会見で、トランプ大統領の謝意に関連し、日米通商交渉への影響は「分からない」としつつ、「首脳間で非常に信頼関係が醸成されている雰囲気は、通商交渉を進めるうえでもプラス」と述べた。

(竹本能文 編集:田巻一彦)

[東京 4日 ロイター]


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