最新記事

米中首脳会談

中国には対米強硬派がいるわけではない

2018年11月30日(金)16時32分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席(写真は昨年11月、北京にて) Damir Sagolj-REUTERS 

中国は建国以来、米国を超えることが夢であり、中国社会の米国に対する憧れは尋常ではない。今は「中国製造2025」国家戦略により夢の実現に向けて突進しており、米中関係はこの戦略を阻害するか否かが分岐点となる。

対米強硬派がいるため対米政策がぶれるという言説

最近、日本のメディアで中国には対米強硬派と穏健派がいて権力闘争をしているために、中国の対米政策がぶれているという分析を見かけることがある。いったい、どこからこのような非現実的な論説が出てくるのかと、あまりに不思議に思ったので、つい、実態を書かなければという使命感が湧きあがってきた。

毛沢東は「打倒米帝国主義」を主張し、日本を犠牲者として擁護した

中国建国の父である毛沢東は、建国以来、米国を主敵として、米国の犠牲になった「日本」を擁護したほどである。

筆者が小学校に通っていた1950年代初期、朝鮮戦争が起きると、中国は「打倒米帝国主義」一色で塗りつぶされ、「トルーマンよ、気がふれたのか?!」という歌が現れて、毎日学校で歌わされたものだ。

そのため日本が米帝の「植民地」になっているとして、沖縄のために闘わなければならないと教育され、もちろん「尖閣諸島」は沖縄のものだと位置づけていた。

1958年から毛沢東が始めた「大躍進」は、15年以内に核兵器や経済において米英を追い越すことを目標とした国家戦略で、それは数千万人に及ぶ犠牲者を出して大失敗に終わった。その責任を取って毛沢東は国家主席の座を追われ、代わりに劉少奇が国家主席になるのだが、この劉少奇政権を打倒するために毛沢東が起こしたのが文化大革命(1966~76年)である。

改革開放後の憧れの的は米国

1978年12月から改革開放が始まり、80年代に入ると中国の若者たちの海外留学が許されるようになったので、勉学への飢餓感に駆られた中国の若者たちが、爆発的な勢いで海外に留学し始めた。なんといっても文化大革命期間中は、高等教育機関はすべて閉鎖されていたからである。一部、工農兵(学歴の低い工場労働者と農民と兵隊)にのみ許された小規模の教育組織があっただけだ。

筆者は1990年代半ばから21世紀初頭にかけて、海外留学して帰国した元中国人留学生の「日本留学と欧米留学の留学効果に関する研究」を行なったことがある。その間、中国に帰国した大量の元中国人留学生の意識調査を行なったのだが、圧倒的多数の者が「米国で取得した博士学位が中国社会で高く評価される」と回答した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、出産費用「自己負担ゼロ」へ 人口減少に歯止め

ワールド

ロシア中銀、ユーロクリアを提訴 2300億ドルの損

ワールド

中国が岩崎元統合幕僚長に制裁、官房長官「一方的措置

ビジネス

フジHD、33.3%まで株式買い増しと通知受領 村
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中