最新記事

ブレグジット

イギリスが欧州の「孤島」になる日

No-Deal Brexit Looming

2018年11月22日(木)17時20分
デービッド・ブレナン

港湾周辺は非常事態に

一方、荷待ちトラックの大渋滞が予想される港湾周辺は、それほど楽観できる状況ではなさそうだ。イギリス政府は、主な港の近くにある高速道路を一時的に閉鎖し、巨大な駐車場に転用する計画を検討している(きっと恐怖の大災害映画の一場面みたいな光景になる)。

政府はまた、主要な港の混乱を想定して、フェリー船団をチャーターして重要物資の輸送に充てることも考えている。

年間250万台もの大型トラックが行き来するドーバー港では、通関に2分余計にかかるだけで(ロンドンと港を結ぶ)高速道路M20に30キロ近い渋滞が発生すると予想される。ちなみに英食品飲料連盟のイアン・ライトによれば、通関検査には最大で7~8分かかるという。

渋滞に巻き込まれた運転手にとって、問題は長い待ち時間だけではない。政府の公表した「合意なき離脱への備え」によれば、イギリスの運転免許証はヨーロッパ各国で通用しなくなる可能性がある。そうであれば、英仏海峡を越えて荷物を運ぶドライバーは出発前に、国際運転免許証を取得しておかなければならない。もちろん、それには費用がかかる。

ドーバー港から3キロほど北にあるガソリンスタンドにいたトラック運転手のジェイミーは本誌に、ブレグジットの不確実性は「かなり気になる。いったいどうなるのか誰も分かっていない」と語り「残念だが、私たちにできることはあまりない。現実を受け入れ、様子を見る。待つしかない」と続けた。

もしも国境地帯でトラックが足止めを食えば、積み荷の食料も一緒に立ち往生する。ちなみに英国内で消費される食料の約3割はEUからの輸入品だ。

9月には環境・食料・農村省に政務次官職が新設された。EU離脱に備えて食料の供給を確保することがその職務だ。ただし政府は表向き、さほど心配はないとしている。

しかし業界サイドは警鐘を鳴らし続けている。合意なき離脱なら食品小売業界のコスト増は最大で93億ポンドとの推定もある。いずれは価格に転嫁され、消費者が負担することになる。

食品飲料連盟のライトによると、見通しは「大変厳しく」、業界は憂慮している。「以前は人騒がせもほどほどにと言われたが、本当に大変なことなのだ」。とりわけ小規模な生産者は致命的な打撃を受けかねない。

買い置きできない薬も

ある日突然、国内各地のスーパーマーケットの棚が空っぽになるわけではない。しかし日々の買い物で選択肢が減ることは覚悟すべきだろうとライトは言う。本格的に供給が途絶えることになれば、「過去40年の間にイギリスの消費者が当たり前と思うようになった選択肢と製品の範囲が大幅に、しかも急速に変化するだろう」。

だから多くの市民が「最悪の事態」に備え始めた。ロンドンで広告関係の仕事をしているグラスゴー出身のジェニファー・マケンヒル(36)は、国民投票ではEU残留に賛成した。離脱が決まっても、まさか「ブレグジット非常グッズ箱」を用意することになるとは思っていなかったが、さすがに数カ月前からは普段より多めに買い物をするようになったという。

いざというときのため、食品は余分に買い置きしている。パスタ類や缶詰のほか「洗面化粧用品、鎮痛剤、シャンプー、歯磨きなど、貧しい人のためのフードバンクのような品ぞろえ」だとマケンヒルは本誌に語った。数年前なら、こんな準備をするのは「精神的にアブナイ人」と感じただろうとも。

しかしEU離脱にまつわる不確実性に気付いて考えを変えたそうだ。「計画性がない。政府は市場の物流と供給チェーンの仕組みをろくに理解していないようにみえる」と、マケンヒルは指摘した。「想定内で最良のシナリオの場合、買い置き品は使わないで済む。いずれにせよ、1年くらいで使い切れる量だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メルツ独首相、中銀への政治的圧力を懸念 「独立性が

ワールド

トランプ政権の駐ベトナム大使が交代へ、対米黒字縮小

ワールド

日韓首脳、高市氏の地元・奈良で会談 李大統領「中日

ワールド

韓国、年初の外平債発行検討 外貨準備増強=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    筋力はなぜパワーを必要としないのか?...動きを変え…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中