最新記事

ブレグジット

イギリスが欧州の「孤島」になる日

No-Deal Brexit Looming

2018年11月22日(木)17時20分
デービッド・ブレナン

想定される「最悪の事態」

実際、与党・保守党も内閣も強硬派(合意なしでも強硬離脱)と穏健派(EUとの連携を重視)、そして反対派(国民投票の再実施を要求)に分裂している。野党勢力は合意なき離脱の回避を求め、世論は今も大きく離脱の賛否で割れている。

メイ首相は従来、合意なき離脱も「この世の終わり」ではないと主張してきた。しかし今回の暫定合意案が議会の承認を得られなければ、いよいよ合意なき離脱の可能性が高まる。

国民のパニックを防ぐために政府が公表した「合意なき離脱への備え」という文書も、結果的には近い将来への不安をあおるものとなっている。例えば、いまEU域内で暮らしている約130万の英国民は来年4月以降、本国の銀行や年金サービスを利用できなくなる恐れがある。国内企業には新たな通関業務への対応が、製薬会社には輸入が滞る恐れから感染症の治療薬などの十分な在庫の確保が求められている。

昨年11月、政府はEU離脱に伴う対策の資金として、合意の有無にかかわらず30億ポンド(約39億ドル)の追加予算を確保した。これで臨時職員の人件費から、荷待ちトラックの混雑を緩和するために整備する駐車場の建設費までを賄う。

EU離脱省の広報担当者は本誌に、「包括的な」準備で「個人や企業への短期的な混乱のリスク」を最小限に抑えると語ったが、政府の予算執行を監査する会計監査院は、離脱期限の3月までに対策が間に合うか疑問だとしている。

ハードブレグジット(合意なき離脱)で最も心配される点の一つが、日々の物資の供給に対する影響だ。EU加盟以来の数十年間、人や物はイギリスの国境を越えて自由に行き来してきた。この便利な仕組みはなくなる。通関手続きと入国審査が必要になるから、国境は混乱に陥る可能性がある。

イギリスの貿易は、自由貿易協定を締結していない国同士の貿易の原則を定めたWTO(世界貿易機関)のルールに頼らざるを得なくなる。そして、より多くの規制やコスト負担に直面することになる。

空の便の混乱は特に深刻だ。EUは現在、イギリスの航空会社のアメリカ、カナダなどヨーロッパ以外の国も含む44カ国への運航を統括しており、これがイギリスの空の交通量の約85%を占めている。

WTOのルールは、航空便には及ばない。だから国際線の運航を続けるには新たな取り決めが必要になる。政府も国内の主要な空港も、合意なき離脱はイギリスの空港機能を麻痺させかねないと警告している。

ただしイギリスの航空会社を代表する業界団体エアラインズUKの政策・公共問題担当ロブ・グリッグスは、国際線の運航が不可能になる事態までは想定していないという。

最悪、合意なき離脱となった場合でも、EUまたは個々の加盟国との間で「必要最小限の」協定を「かなり早い段階で」締結することができるという。そうすれば、後でより詳しいことが決まるまで、無事に航空機を飛ばし続けることができる。「そこには自信がある。だが、それで満足というわけではない」と、グリッグスは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中