最新記事

監督インタビュー

「生産性」の杉田水脈議員に見て欲しい、「普通とは違う」親子の愛の絆

2018年11月20日(火)16時10分
大橋 希(本誌記者)

――出演している家族はどのように選んだのか。

原作の執筆には10年かかっていて、そこに登場する家族の多くはある種、物語的には解決をみてしまっている。だから、映画に登場してくれる家族は新たに探すというのが、最初の大事な選択だった。今まさに展開している事態をカメラで追いかけたいという思いがあったからだ。

映画に登場する低身長症の人々のための「リトル・ピープル・オブ・アメリカ」のような団体や組織を通して、出演者を探した。たくさんの人に会える会議などにプロデューサーとともに足を運び、そこでさまざまな家族と話をして、興味をそそられた人たちとはもっと話をする、ということを繰り返した。たぶん100家族以上と会ったと思う。

最終的に5、6家族に絞ったが、撮影をオファーし、カメラを回し始める前に彼らとは何度も何度も話をしている。

――殺人を犯した子供の家族も登場する。彼らとの出演交渉は特に難しかったのでは?

それは独特の難しさがあった。事件後、彼らはアメリカ国内で引っ越しをしていたし、何が起きたのかを公には言っていなかったから。きっかけは、(殺人を犯した)トレバーの父デレクがアンドリューの本を読み、感想を送ってきてくれたこと。私たちがこういう家族を探していると知っていたアンドリューが連絡を取り、映画に出演する気はないかと声をかけてくれた。

彼らは当然、ものすごく躊躇していた。そこでアンドリュー自身がテキサスに飛び、ホテルの部屋で彼らと9時間ほど話をし、企画について説明した。その後、彼らはためらいながらも、ちょっと考えてみると言ってくれた。私もテキサスに行って説得をしたが、出演を決めてくれるまで何カ月もかかったし、撮影を始める前に信頼関係を築き、話を聞けるようになるまでさらに数カ月かかった。本当に何度も何度も話し合ったが、でも最終的にはみんなにとって有意義な結果になったんじゃないかと思う。

far181120-03.jpg

同性愛者である原作者のソロモンと父の関係も描かれる (C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

――低身長症のカップルが、自分の子供もどちらかといえば低身長症がいいと言う場面には少し驚き、同時に自分自身の偏見にも気付かされた。

私もあなたと同じく、自分の偏見にはっとさせられた瞬間があった。言葉を発せず、キーボードを通してコミュニケーションする13歳の自閉症のジャックを撮影しているときのことだった。彼は矯正治療のために歯科医院で椅子に横たわり、口を開いていた。撮影は順調にいっていたが、ジャックは起き上がると、母親に「キーボードをタイプさせて」と合図をした。彼の希望は「撮影を止めて、ここから出て行ってほしい」ということだった。

このとき私には「彼は嫌なことは嫌だと、ちゃんと言えるんだ?!」と驚き、ほっとする気持ちがわいてきた。彼が健常者だったら、そうは思わなかったかもしれない。彼に知性があることは分かっているつもりだったが、それでも私は彼をほかの子供とは違うように見ていた。「彼は不快なことがっても、それを言えないかもしれない」と思っていた自分に気づかされた、重要な瞬間だった。

――日本では最近、LGBT(性的少数者)は子供を作らず「生産性がない」とした、自民党の杉田水脈議員による記事が問題となった。彼女と話ができるとしたら、どんなことを言いたい?

杉田さんに言いたいことはいろいろあるが、まず、女性には子供を産み、家族の面倒を見ること以外の生産性がまったくないと言われていた時代があったということ。あなたも女性の国会議員として、それがいかに限定的でばからしい考え方か分かるはずだと思う。そして、今では本当に多くのゲイのカップルが子供を持ち、育て、素晴らしい親になっている。それに加えて科学の進化により、命の選別といった厳しい決断を下すことができる時代を私たちは生きている。人間に対して、どのように寛容であるべきかが問われている。

生産性という言葉について言えば、それを測るにはいろいろな物差しがある。どのくらい稼げるのか、どれくらい賞を取ったり、資格を取ったりできるのかはその一部。でも生産性は、人間同士の対話に対する貢献度もあると思う。私が思うに、人間の対話やコミュニケーションは多様性によって左右される。いろいろな意見、人種、いろいろなセクシャリティーやアイデンティティーの多様性......そういうところから乖離した生産性という考え方で「人類への貢献度が低い」と言うのは、とても危険な道につながるのではないかと思う。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中