最新記事

監督インタビュー

「生産性」の杉田水脈議員に見て欲しい、「普通とは違う」親子の愛の絆

2018年11月20日(火)16時10分
大橋 希(本誌記者)

ダウン症のジェイソンはアニメ映画『アナと雪の女王』のエルサに夢中 (C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

<自閉症やダウン症など「普通とは違う」子供とその家族を追ったドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』のレイチェル・ドレッツィン監督に聞く>

どんな子供が生まれてくるかは誕生の瞬間まで分からない。その子供がどんな人間に育つかも分からない。「普通」とは違う子供だったら、親の子供に対する愛情も「普通」とは違うのか――?

親子の関係についてだけでなく、自分とは異なる面を持つ他者をどう受け入れるかということも考えさせてくれるのが、ドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』だ(日本公開中)。自閉症やダウン症、低身長症などの子供とその家族6組を追ったもので、作家アンドリュー・ソロモンがさまざまな困難を抱える300組以上の親子に取材したベストセラー『Far From the Tree』を原作としている。

映画の英題でもある『Far From the Tree』は、The apple doesn't fall far from the tree.(リンゴは木から遠い場所には落ちない=子は親に似るもの)ということわざから来ている。映画には原作者ソロモンも登場し、ゲイであることで悩んだ経験や父との和解などが描かれる。本作のレイチェル・ドレッツィン監督に本誌・大橋希が話を聞いた。

***


――製作のきっかけは?

実は原作者のアンドリューとは大学が同じなんです。在学中は友人ではなかったが、共通の知り合いもいる。そんなこともあって、6年前にニューヨーク・タイムズ紙に彼の作品の書評が載ったときにすごく興味をそそられた。本に描かれた「愛は困難や逆境を経験することでより深まる」という考え方に引かれ、すぐに読んでみた。800ページもあるので数日かかったが、読み進めるうちに絶対に映画化したいという思いを強くした。

アンドリューのメールアドレスを手に入れて連絡をしたらとても喜んでくれたが、「実は25~30人くらいの映画製作者から映画化の提案があるんだ」とも言われて。そこからはアンドリューが私を選んでくれるように企画書を出したり、ディナーを一緒にしたりと一生懸命説得した。やっと「いいよ」という返事をもらったときはとても嬉しかった。

far181120-02.jpg

低身長症のリアとジョセフは障がい者の権利や自立のために積極的に活動している (C)2017 FAR FROM THE TREE, LLC

――映画化するにあたり、彼とはどんな話をした?

最初にアンドリューと同意し合ったのは、原作をそのまま映画化することは無理だね、ということ。800ページもあり、数多くの家族が登場する本だから。それよりも映画化するときに大事なのは、原作の本質や精神をきちんととらえることだと私は考えていて、アンドリューもそのことをすぐに理解してくれた。

ミニシリーズ的なものか、長編劇場用映画か、どちらにするのがいいのかと話し合ったが、私は後者がいいと思った。それぞれの家族の物語は全く違うものだが、お互いに関連し合うものでもあるので、観客がそれを一度に経験できるほうがいいと考えたから。

本で中心的に描かれているテーマが3つある。まず、「違う」とはどういうことなのかということ。それが外見でも、内面でも、人と違うのはつらい経験なのではないかと世間は思い込みがちだが、そうではなくて、実は誇りにつながるもの、喜びの源となるものだ。2つめは、自分が思っていたのとはまったく違う子供を持ったときの、過激なほど強い親の愛情。親は最初恐れを感じるかもしれないが、最終的には人間として成長していく。

3つめは、70年代のアメリカでゲイとして育ったアンドリューの経験。当時はゲイであるのは病気だ、治療すべきものだと思われていた。それが数十年たった今では、むしろアイデンティティーとして祝福されるべきもの、誇りの源である見られるようになった。

彼の原作は――映画もそうだと思うが――こう問題提起をしている。「病気」と「アイデンティティー」を分ける線は、とても細いのではないか? 同性愛者についての見方が数十年でここまで変わったのだから、自閉症や低身長症、ダウン症などの人々に対する社会の見方もいずれ変わるのではないか。今は憐憫が強いかもしれないが、もっと肯定的なもの、アイデンティティーとして祝福されるものになるのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、FRB理事解任発表後の円高を

ビジネス

トランプ氏、クックFRB理事を異例の解任 住宅ロー

ビジネス

ファンダメンタルズ反映し安定推移重要、為替市場の動

ワールド

トランプ米政権、前政権の風力発電事業承認を取り消し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中