最新記事

BOOKS

沖縄の風俗街は「沖縄の恥部」なのか?

2018年11月13日(火)16時35分
玖保樹 鈴

終戦後アメリカの占領統治下に置かれた沖縄では、米兵相手に売春を始める戦争未亡人が急増した。一方で占領米軍によって、多くの女性がレイプの危機に晒された。野戦病院内で襲われたり、拉致されて行方不明になったり、凌辱の末に殺された女性もいることがわかっている。1955年には嘉手納村(現在の嘉手納町)では6歳の少女が強姦され、惨殺される事件も起きた。

現在は内地の観光客がおもな相手だが、かつては生活を守るため、子どもや女性を性暴力から守るための、特飲街はいわば「性の防波堤」だったのだ。

しかし同書によると、1995年に起きた小学生暴行事件の加害者の米兵たちは、「売春街に行こうか」「あそこは薄暗くて汚くて、自分の貧しい子ども時代を思い出すから嫌だ」と語っていたという。

特飲街があってもレイプ事件は起こっている。また性病が蔓延して客が寄り付かなくなる店や、米兵の相手は負担が大きいとして、日本人男性のみを相手にする女性も多かった。特飲街は、防波堤の役割を果たしきれるものではなかったのだ。

生きてくために売春することの何が悪いか

女性の性を奪うことで生を与えてきた特飲街だが、真栄原新町もコザ吉原も、現在はほぼ壊滅している。2010年以降、宜野湾市は沖縄県警とともに、青少年の健全育成のために真栄原新町の違法風俗店の摘発を進めたからだ。

街の入口に検問を張り、訪れる人たちを職務質問するなどして、客を寄せ付けないようにした。店側には税務署が売り上げに課税し、経営を圧迫した。ほぼ同じタイミングで、コザでも取り締まりが始まった。いずれも「浄化」運動が功を奏し、買春目的で訪れる男たちは消えた。

一連の流れを見てきた藤井さんに対し、真栄原新町の運動を推進した女性団体の副会長(当時)は、「女性として、売春することは許せないと思ったんです。女の武器を利用してやっているのは、私は一人の女として許せないし、それを弄んでいる男も許せません」と同書で答えている。それを聞いた藤井さんは


どうして、許せないと言うのだろうか? それは侮蔑なのか。人生観の押しつけなのか。真っ当な生き方へと救済したいと思っているのか。

と、疑問を抑えきれない。そして1960年頃から売春を続け、現在はアパートで1人暮らしをする87歳の女性による「生きてくために売春することの何が悪いか」のメモ書きを見て絶句する。

しかし藤井さんは決して、売春を「生きるための必要悪」として片付けることをしない。その是非を問うたり、特殊な仕事のように扱うこともない。ましてや賛美もない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米サイバーマンデー売上高、6.3%増の見通し AI

ビジネス

BofA、FRBの12月利下げを予想 据え置き見通

ビジネス

米、英の医薬品関税をゼロに NHS支出増と新薬価格

ワールド

ゼレンスキー氏、マクロン氏とパリで会談 「持続可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中