最新記事

BOOKS

沖縄の風俗街は「沖縄の恥部」なのか?

2018年11月13日(火)16時35分
玖保樹 鈴

ひたすら声を聞き取ることに徹しているからこそ、あとがきにあるように夜の世界の人たちは「どこの馬の骨かわからないヤマトンチュの中年ライターのぶしつけな問いに丁寧に答えてくれた」のだろう。

歴史に埋もれてきた声を受け取るべきはヤマトの人間

同書は沖縄の風俗街の歴史本ではない。特飲街が生まれては廃れていくさまを通して、沖縄の女性がアメリカの、ヤマトの、そして同胞の男たちにいかに翻弄されてきたかを描きだしている。

翻弄されたのは、売春で生活する女性も、嫌悪し浄化に励んだ女性も変わらない。もし地上戦がなかったら。アメリカに占領されなかったら。基地を押し付けられることがなかったら。それぞれに違った生き方があったかもしれないからだ。

また真栄原新町やコザ吉原が壊滅した今も、辻の風俗店は営業している。性を売る場所自体が消えたわけではないし、2016年にも米軍関係者により女性が襲われ、命を奪われる事件が起きている。今もなお沖縄の女性は、翻弄され続けているのだ。

藤井さんは巻末で「沖縄の読者のなかには、この本を『沖縄の恥部をヤマトの人間が暴いた』と嫌悪する方も少なからずおられると思う」と語っている。確かにこれまで沖縄の特飲街は、興味本位の風俗レポート以外で語られることはほとんどなかったように思える。しかしそれを「恥部」と呼ぶなら、どうして「恥」が生まれたのかを、ヤマトの人間は考える必要がある。

同時に、「まぎれもなく売春街で生き抜いてきた人々の生活と人生が存在し、それは沖縄の戦後史の一部を形成してきた」「『沖縄アンダーグラウンド』を生きた無数の人々の声を埋もれさせてはならないと思うのだ」とも記している。

確かにその街で生きていた。しかしその姿は事件でも起きない限り、これまでほとんど顧みられることはなかった。いわば歴史に埋もれてきた女性たちだが、その声を受け取るべきは、一体誰なのか。それは紛れもなく、ヤマトの人間たちなのだ。


『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』
 藤井誠二 著
 講談社

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユニクロ、C・ブランシェットさんとブランドアンバサ

ビジネス

アングル:夏枯れ下の円金利上昇、政局や金融政策に不

ワールド

アングル:ロシア、増税と歳出削減を準備か 軍事費高

ワールド

プーチン氏が会談拒否なら、米の「強い対応」望む=ゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中