最新記事

セックス

射精にはなぜ時間がかかるのか?

Health Check: how long does sex normally last?

2018年11月2日(金)16時00分
ブレンダン・ジーチ(クイーンズランド大学研究員)

子孫を残すためだけなら精子を膣内に送り込めばいいだけなのに、なぜ時間をかけるよう「設計」されたのか bymuratdeniz-iStock.

<挿入から射精までの時間について考えた進化学者がたどりついた驚くべき仮説>

悲しいほどあっけなく終わった「行為」のあと、ベッドのヘッドボードに寄りかかってこう自問したことはないだろうか。セックスって「普通は」どのくらい持続するものなのだろう......?

科学的に言えば、「膣内射精待機時間」の問題だ。

挿入して出すだけがセックスでないことは百も承知だ。だがそれ以外の部分(キスとか愛撫とか......)を定義するのはなかなか難しいので、ここではとりあえず問題を「射精までの時間」に絞ろう。

射精までの平均時間をどう計るか、というのも簡単な話ではない。人はこの時間を実際より長く見積もる傾向があるし、時間など覚えていない場合も多いだろう。

調べてみた結果は......幅がありすぎ

平均的な挿入時間に関する研究の中で最も信頼がおけるのは、世界各国の500組のカップルを対象にした調査だ。この調査では4週間にわたり、ストップウォッチを使ってセックスの時間を計測させた。

挿入の際にストップウォッチのスタートボタンを押し、射精に合わせてストップボタンを押すというのだから面倒な話ではある。ムードを壊しそうな気もするし、自然な流れをじゃましている部分もあるかも知れない。だが、科学が完璧なことはめったにないし、これが現時点ではもっともまともな研究なのだ。

さてこの調査から得られた驚くべき結果とは、持続時間の幅が広いことだった。カップル毎の4週間の平均所要時間を見ると、最短が33秒で最長は44分。実に80倍の違いがあったのだ。

つまりセックスの持続時間に「普通」はないということだ。ちなみに中央値(500組のカップルを時間順に一列に並べて、真ん中の位置にいたカップルの平均時間)は5.4分だった。

他にもいくつか興味深いことが分かった。例えばコンドームの使用や男性の割礼の有無と所要時間の間には関係がないらしい。どちらも男性器の感じやすさや持続時間に影響するとよく言われるが、そうした「常識」とは矛盾した結果が出た。

国籍による違いもあまり関係がなかった。ただしトルコだけは例外で、他の国々(オランダ、スペイン、イギリス、アメリカ)に比べてずっと短い3.7分だった。また年配のカップルのほうが時間は短い傾向が見られ、一般的に考えられているのとは逆の結果になった(年配男性自身がそう主張しているだけなのかも知れない)。

こうした研究結果を前にすると、私のように進化について研究している学者はこう思ってしまう。「そもそもどうしてセックスには一定の時間が必要なのか?」と。セックスが達成しなければならない使命は精子を膣内に送り込むことだけのはずだ。なのになぜ、わざわざ前後運動を繰り返さなければならないのか? 挿入と同時に射精して、あとはレモネードでも飲んで残りの時間を楽しめばいいものを。

答えはそれが快楽を伴うからに他ならない。そして快楽は、遺伝子を未来の世代に受け渡すのに役立つよう「設計」されている。

食事もそうだ。だが我々は、食事が快楽だからといってそれを長引かせるためだけに5分も咀嚼を続けたりはしない。

自分の遺伝子を残すための巧みな「戦略」

それではなぜ、セックスにはこれほど時間がかかるのか。だが手がかりは、男性器の形状にあるかも知れない。模型とコーンシロップ(精液の代わり)を使った03年の研究では、男性器の先端部分の横に張り出した部分が、膣内に入れてあったコーンシロップをかき出す役目を果たすことが確認された。

つまり時間をかけた前後運動は射精前に他の男性の精子を排除し、自分の精子が卵子に一番乗りできるようにするための機能かも知れない。またこれは、いったん射精するとそれ以上、行為を続けるのが苦痛になる理由の説明にもなるかも知れない。なぜならせっかくの自分の精子をかき出してしまう恐れがあるからだ。

では今学んだ情報をどう生かすべきか? 私からのアドバイスは、こんなことは忘れて没頭することだ。

(翻訳:村井裕美)

Brendan Zietsch, Research Fellow, The University of Queensland

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 Newsweek Exclusive 昭和100年
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月12日/19日号(8月5日発売)は「Newsweek Exclusive 昭和100年」特集。現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中