最新記事

東京五輪を襲う中国ダークウェブ

サイバー民兵が1000万人超 中国で加速する「軍民協力」の実態

CHINA’S CYBER MILITIAS

2018年11月22日(木)16時10分
ニコラス・ライアル(オーストラリア国立大学研究員)

未来の戦いに向けて人民解放軍と通信企業や大学などの連携が進んでいる DAMIR SAGOLJ-REUTERS

<来るべき情報戦争での必勝を期して、中国政府はサイバー分野での軍民協力を急加速。カギは「民間ハッカー」をどうコントロールするかだ。日本を襲う中国のサイバー攻撃は、既に始まっている>



※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。
(この記事は本誌「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集より転載)

昨年9月、中国の政府機関「中国サイバースペース管理局」のチームが1本の論文を発表した。習近平(シー・チンピン)国家主席のサイバー政策の骨子をまとめたとされる論文だ。そこに、注目すべき記述がある。「サイバーセキュリティーと情報化における軍民統合を推進」すると書かれているのだ。

実際、中国政府はサイバー空間での軍事的能力を強化するために民間の力を積極的に活用し始めている。政府の指導の下、中国初のサイバーセキュリティー・イノベーションセンターが発足したのは昨年12月。運営に当たるのは、中国でも屈指のサイバーセキュリティー企業である「360企業安全集団」だ。同センターは、「(軍が)未来のサイバー戦争に勝つのを助ける」ために民間の協力を促進することを役割としている。

中国が民間の力を軍事上の目的に活用するのは、今に始まったことではない。共産党政権を樹立した建国の父・毛沢東が掲げた「人民戦争論」は、敵と戦う上で全ての人民の力を動員することを重んじ、正規軍だけでなく民兵を活用すべきだと説いていた。

基本的な考え方は、今日の共産党政権にも生き続けている。中国人民解放軍の軍事戦略を記した刊行物『軍事戦略の科学』の2001年版でも「人民の創造性を存分に生かす」ことの重要性が指摘されていた。昨年9月のサイバースペース管理局の論文も、「軍が人民に奉仕し、人民が軍を助ける」ことを強調している。

サイバー空間での軍民協力を促進する方針の下、人民解放軍は通信機器大手の中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)のような企業とのパートナーシップを強化してきたほか、大学との連携も推し進めている。そうした企業や大学は、中国の「サイバー民兵」の一角を成している。

サイバー民兵は、中国で進む軍民協力の1つの産物と言える。イギリスの情報機関幹部を長年務めたナイジェル・インクスターの著書『中国のサイバーパワー』によれば、20年くらい前に初めて登場した中国のサイバー民兵は、今では1000万人を超すまでに膨れ上がっている。

サイバー分野でも民兵を活用することは、毛沢東の人民戦争論にも合致する。中国で一般的に民兵が果たしてきた役割は、補給面で実戦部隊を支援し、後方の安全確保を行うこと。サイバー民兵もそのような役割を担うことになりそうだ。

ただし、人民解放軍がサイバー民兵に求める任務は、サイバー諜報活動に限定される可能性が高い。サイバー攻撃そのものに携わらせることはないだろう。人民解放軍の正規のサイバー部隊が活動する際に足手まといになりかねないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中