最新記事

日本文学

村上春樹が今度こそノーベル賞を取るために

2018年10月24日(水)18時10分
フローラン・ダバディ

村上春樹の知名度は海外でも抜群(東京の書店、2009年11月)

<村上春樹がフランスの作家なら、フランス人は村上という天才にノーベル賞を取らせるにはどうしたらいいかを熱く議論しただろう。日本人はなぜそうしないのか? 文学への情熱を失ったのか?と、フローラン・ダバディが問う>

日本文学にとっては3度目の正直になります。川端康成と大江健三郎に次ぐ栄光、21世紀に相応しいノーベル文学賞受賞者の到来を私も待っています。最近はほとんどの先進国が受賞しているのに、日本だけは恵まれていません。日本政府はフランス政府と共同で史上最大の日本文化祭「ジャポニズム2018」をフランス・パリで開催し、ソフトパワーの極みである五輪、題して「東京2020」の招致にも成功しました。

私の子供時代(1980年代)には、日本は斬新かつコンテンポラリーな建築、映画、文学のムーブメントを誇っていました。西洋では、あらゆる日本文化の中でもこの3分野はとりわけ粋とされました。

残念ながら映画と文学は、日本でも今は不毛の時代です。『万引き家族』がカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したではないか!と思われるでしょうが、現代日本の映画監督で黒澤明や小津安二郎ほど知名度がある監督はいません。文学でも、三島由紀夫以来、世界で名の通った作家はいません。強いて言えば、村上春樹だけでしょう。寂しいことに村上は、ノーベル文学賞の代わりに立ち上げられた今年限りの市民文学賞の候補を辞退しました。

日本社会の欠落をクールに

近年の日本のマスメディアの村上煽りは的外れでしたし、日本の知識人はノーベル文学賞を受けるには村上文学は重みが足りないと言っていました。アルフレッド・ノーベルの遺言では、ノーベル賞の設立趣旨は「人類全体に対し、最大の公益をもたらした人を顕彰する」とありますが、大江健三郎は広島・長崎への原爆投下から半世紀という区切りの年だから受賞したという側面があったし、川端康成の受賞はアジア初のノーベル文学賞でダイバーシティ(多様性)的要素の後押しがあった結果だと思います 。川端と大江の文学は偉大だとしても、当時の世界との関係でタイムリーだったからこその受賞でもありました。

その点、村上春樹は世界中の読者を虜にする、数少ないアジアの小説家です。その意味では当時アジアを代表していた川端に負けていまません。大江さんは閉鎖的な日本の危険性やナショナリズムと戦う政治色のある作家であり、同時に知的障害者の長男と日々生きる闘いも小説にできた鬼才です。村上春樹に比べて波乱万丈な人生だったのかもしれませんが、実は村上も、日本社会の排他性を同じ強さで批判しています。しかも若い世代がより興味をもつように、日本社会の欠落をクールに描いてきたのが村上です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米オープンAI、投資受け入れと規制整備で米政府に協

ビジネス

情報BOX:大手金融各社、FRB利下げ予想修正 雇

ワールド

マスク氏とトランプ氏の関係、宇宙開発競争への脅威に

ワールド

ガザ停戦交渉に進展、米現・次期政権が連携 最終案を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 7
    アルミ缶収集だけではない...ホームレスの仕事・生き…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    すべての移住者とつくる共生社会のために──国連IOM駐…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 7
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 8
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中