最新記事

BOOKS

『サピエンス全史』の歴史学者が、AI革命後の未来を見通す最新刊

Harari’s Grand Narratives

2018年10月18日(木)17時00分
サミュエル・アール

『サピエンス全史』の著者ハラリが最新作で現在と未来の緊急の課題を論じる VCG/GETTY IMAGES

<『サピエンス全史』で世界を席巻した気鋭の歴史学者ユバル・ノア・ハラリが人類の今後に警鐘を鳴らす>

2011年、エルサレムにあるヘブライ大学のほとんど無名な35歳の歴史学者が3冊目の著書を出版した。ユバル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』(邦訳・河出書房新社)は、人類の歴史を400ページに凝縮した野心的かつ壮大なスケールの本で、イスラエルで3年連続ベストセラー1位という大成功を収めた。

14年に英訳されると、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO、バラク・オバマ米大統領(当時)など世界中の大物たちが「必読書」と大絶賛。既に全世界で800万部を突破している。

中世軍事史の専門家としては異例の注目度だが、本人は名声を受け入れている。『サピエンス全史』の成功に続き、16年には『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(邦訳・河出書房新社)を出版。最新作は今年9月出版の『21世紀のための21の教訓』だ。

ハラリは今や富裕層の集まりの常連だ。スイスで世界各国の首脳に交じって世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に参加し、シリコンバレーのIT企業の会議室で重役たちと議論を交わす。

現代の知性の象徴とも言うべきTED(優れたアイデアをスピーチで世界に広めることを目指す非営利団体)での講演回数も増える一方だ。最近はホログラムを使って講演、再生回数は100万回を超えている。

「研究生活に入った当初は、これほど影響力を持つようになるとは思わなかった」と、『21の教訓』の出版前にハラリは本誌に語っている。「『サピエンス全史』は主にイスラエルの大学生に向けて執筆した。今は当時以上に期待され、責任も重い」

AI技術の最前線に注目

思わぬ人気に後押しされ、ハラリは研究の焦点を遠い過去から現在と未来の緊急の課題に移している。「今、世界の最大の問題の1つは情報の氾濫だ。何が起きているのか理解し、正しい優先順位を付けることは非常に難しい。議論は白熱しても、最も重要な問題は完全に無視されかねない。私の最大の使命は公の議論に明晰さをもたらし、少なくとも何が最も重要な問題かについて人々を合意させることだと思う。その問題の答えを見つけるのはさらに難しい」

焦点の変化は名声がもたらした自由のおかげでもある。好奇心の赴くままに探究できるようになり、最近の著作や今回の取材からは、その行き先がもはや古代文明ではないことがうかがえる。いま注目しているのは、人工知能(AI)技術の最前線。『21の教訓』も数多くの「現在の最も差し迫った問題」を網羅しているが、主役はAIだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、第3四半期利益・売上高が予想超え 小型機

ビジネス

FRB、12月1日でバランスシート縮小終了 短期流

ワールド

トランプ氏、韓国の原子力潜水艦建造を承認 米フィラ

ビジネス

日経平均はプラス転換し史上最高値、ハイテク株が押し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中