最新記事

フィリピン

中国の南シナ海進出にドゥテルテのんきに「中国と今ケンカ」 対外強硬演じても国民の不満収まらず

2018年9月13日(木)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

優柔不断な態度を見せる間に中国の海洋支配は進んでいる (c) ABS-CBN News-YouTube

<南シナ海問題で対立関係にある中国に対してはときに強硬な態度を示したかと思えば、すぐに友好関係をアピールするなど二転三転するドゥテルテ大統領。いよいよ国民の心も離れ始めた?>

中国との間で領有権争いをしている南シナ海の島々を巡り、フィリピンのドゥテルテ大統領が9月11日、中国にはきちんと言うべきことは言っているとの立場から「中国とケンカしているところだ」と発言していたことが分かった。

もっともその直後に大統領報道官が「ケンカというより苛立ちが高じたというだけだ」と発言を修正、火消しをした。実際に中国に対して新たに「ケンカを売った」というわけではなく、あくまでフィリピン国内向けのアピールの側面が強かったとの見方が有力だ。

8月にフィリピン海軍の軍用機が南シナ海を飛行中、中国が一方的に軍事基地化して領有権を誇示している島の空域に接近した。この際中国側から「友好国であるフィリピン軍へ伝える。両国の友好関係にも関わらず問題を起こそうとしている」として方向転換を強く求められたという。

こうした中国の強硬姿勢にドゥテルテ大統領も黙っていられなくなり「島々は中国のものではなく、フィリピンのものである。だからケンカになったのだ」と9月11日に大統領法律顧問のサルバドール・パネロ氏に語ったとフィリピンのメディアが報じた。

これまでもフィリピン軍用機が同空域に接近するたびに中国側は「すぐに引き返すか、さもなければ全てこれから起きる結果に対して責任をとるかのどちらかを選択しろ」と高圧的に「脅迫」してくる事案が度々発生していたという。

背景に国内世論の動向や支持率低下も

ドゥテルテ大統領のこうした「ケンカ発言」の背景には、南シナ海の領有権問題では中国に対して弱気でフィリピンの立場を強く主張していない、という国民の懐疑的見方がある。

フィリピンはパラワン島沖の南シナ海にあるフェアリークロス礁、ミスチノフ礁、スビ礁、ガベン礁、ヒューズ礁、ジョンソン南礁、クアテロン礁などの領有権を主張しているが、中国が島や岩礁、珊瑚礁を自国領土と主張したり人工島を建設したりと一方的にこの地域の実効支配を進めている。

アキノ前政権がこうしたことが国際法違反であるとオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に中国を提訴。2016年7月には「中国の主張には法的根拠がない」とする勝利裁定を得ている。

こうした国際社会の「お墨付き」を得たにも関わらず中国が裁定を完全無視しているため、領有権問題は一向に解決の道筋が見えてこず、その間中国は島々に滑走路やレーダー施設などの建設を着々と進め、軍事拠点化しているのが実状だ。

こうした事態にフィリピン国内では「経済援助と引き換えに領有権問題で譲歩したのではないか」と政権批判が渦巻いているのも事実である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中