最新記事

フィリピン

中国の南シナ海進出にドゥテルテのんきに「中国と今ケンカ」 対外強硬演じても国民の不満収まらず

2018年9月13日(木)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)


「経済上での関係が有効なためマラカニアン(大統領府のこと)は中国の安全保障上の脅威に気付いていない」と批判するフィリピンメディア ABS-CBN News-YouTube

さらに6月末に発表された世論調査の結果でドゥテルテ大統領への支持率が過去最低を記録したことも大統領と政権の焦燥感を高めているとの指摘もある。

独立系調査機関「ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)」が実施した世論調査ではドゥテルテ大統領の支持率は前回の65%をさらに下回る57%となり、2016年の大統領就任以来最低の数字となっていた。

これは6月にドゥテルテ大統領が進める麻薬関連犯罪の取締・捜査で超法規的殺人を容認するかのような方針を批判したカトリック組織に対し「神は馬鹿だ、聖職者は偽善者だ」と発言し、多数を占めるカトリック信者の反発を招いたことが大きな理由と分析されている。

大統領報道官が火消しに躍起

ドゥテルテ大統領による「中国とケンカしている」発言があった翌日の9月12日、大統領報道官のハリー・ロケ氏は記者会見で「大統領のケンカ発言だが、ケンカというよりは苛立ちが高じて自分をやや見失った末の発言というのが正確なところだ」と大統領発言が独り歩きしていることを修正、中国側の公式反応が出る前に火消しを行った。

こうした政権の姿勢に「やはり中国に気を使っているのではないか」(フィリピン人記者)との批判的な声も出ている。

ドゥテルテ大統領は就任直後から不規則発言や差別発言、暴言などで多くの物議を醸してきた。「暴言王」「フィリピンのトランプ」
などの異名もそうしたドゥテルテ大統領を好意的に表現したものとされてきた。

それは常に80%前後という高い国民の支持率が背景にあったからで、大統領の心中には「何を言っても国民は支持してくれる」との思惑があったからと指摘されている。

だが、就任から2年以上が経過しても、国内での反政府組織の活動は完全に封じ込めることができず、各地で小規模な衝突が続いている。さらに国民生活に直結する国内経済は一向に改善する兆しが見えないなか、対中融和やカトリック批判、女性蔑視の発言など否定的な報道、世論調査での支持率低下が伝えられるようになってきた。

国内政策の不人気を外交政策で挽回したいとの思惑がドゥテルテ大統領にあるのは最近のイスラエル訪問での武器購入、過去のオバマ前大統領への暴言謝罪などからも明らかだ。

しかしフィリピンにとって最も厄介な対中国外交でドゥテルテ大統領は硬軟両用を使い分けようとしているものの、もはや世論にはそうした軟弱な政策を許さない状況が見え始めている。ドゥテルテ大統領にとってはさらに難しい政権運営が迫られているといえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中