最新記事

中国政治

中国、無秩序開発のダム撤去で環境保護へ 一方で大規模水力発電は規制せず

2018年9月5日(水)11時33分

8月31日、中国南西部にある四川省の山間部では、新たに設置された自然保護区における違法開発を解消するため、当局は今年、川沿いにある7基の小規模ダムを取り壊した。3日、大雨のなか四川省の大渡河にある瀑布溝ダムで行われた放水(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

中国南西部にある四川省の山間部では、新たに設置された自然保護区における違法開発を解消するため、当局は今年、川沿いにある7基の小規模ダムを取り壊した。

これは、小さくボロボロなものも多い何百もの国内ダムや原動機を閉鎖することで、長年の無秩序開発に終止符を打ち、中国の巨大な水力発電セクターに秩序をもたらそうとする、国家的な取り組みの一環だ。

今回撤去されたダムは、流れが急で氾濫しやすいことで知られる大渡河の、名もない支流に設置されていた。大渡河は、アジア最大かつ最長の長江に流れ込んでおり、中国政府は、長江水系の数千カ所に上る小規模な水力発電プロジェクトによる「不規則な開発」によって、環境が破壊されたと説明する。

だが、最も影響が大きいとみられる国営の大規模ダムが、今回の対象外とされているため、必ずしも環境を守る結果にはならない、と環境保護団体は主張している。

支流の1つ、周公河の流域では、農民のジャンさん(70)が、大規模ダムによって環境に壊滅的なダメージがあったと語る。

フルネームを教えてくれなかったジャンさんは、自らを「水力発電移民」と呼ぶ。10年前に国が建設したダムによって、自分の土地が水没したからだ。

ジャンさんによると、周公河の流れや温度がダムによって変化したことで、川に住む魚類が壊滅的な影響を受けており、特に四川省生まれの指導者、故トウ小平氏が愛した魚は全滅してしまったという。

「ここの魚はすっかりまずくなってしまった。犬のエサにしかならない」。ジャンさんは自分が捕まえたハクレン3匹を指さし、そう語った。上流の貯水池が氾濫し、押し流されてきたものだという。

中国は20年前、産業を発展させ、電力網のない貧しい地方に電力をもたらそうと、積極的なダム建設の推進政策を打ち出した。

投資家が大挙して参入し、環境推進派はその熱狂を、農民たちが競って自宅に鉄鋼精錬施設を作った1958年以降の「大躍進」政策になぞらえる。農村社会だった中国の産業化を目指すこの政策は、農民が食料ではなく鉄を作り出し、飢饉(ききん)を招いたためだ。

政府はいまや方向転換を図っており、環境問題を意識した中国指導部は、小規模発電ダムをどの程度閉鎖するか決断を迫られている。同時に、国による巨額投資も守る必要もある。

「水力発電は、当時よい政策だった。中国ではよくあることだが、数が多くなりすぎて管理できなくなった」と、成都を拠点とする中国科学院の水力発電専門家、陳国階氏は言う。

四川省の状況が、この話を裏付けている。2017年の同省の水力発電は75ギガワット超に達した。これはほとんどのアジア諸国を上回る規模だ。だが同時に、これは省の送電網が処理可能な電力の倍以上であり、多くの電力が無駄になったことを意味している。

中国の水力発電の公式出力は、6月末時点で約340ギガワットを記録しており、その3分の1程度が出力50メガワット以下の小規模水力発電所によるものだ。火力発電や原子力も含めた中国全体の電力容量は1740ギガワットに達している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中