最新記事

アルゼンチン

アルゼンチンは過剰反応で通貨危機を悪化させている

Argentina Economic Crisis: Will a G-20 Member Default?

2018年8月31日(金)14時10分
クリスティナ・マザ

首都ブエノスアイレスの外貨両替所前でざわめく人々とメディア Marcos Brindicci-REUTERS

<相次ぐ利上げとIMFへの支援申請――トルコほど深刻ではないはずのアルゼンチンで政府の動揺が本物の危機を招く>

アルゼンチン中央銀行は8月30日、政策金利を15%引き上げ、年60%に設定したことを受けて、世界中の投資家がアルゼンチンがまた債務危機に陥るのではないかと不安に駆られている。アルゼンチンでは膨れ上がる対外債務を背景に、景気悪化と通貨ペソの下落、インフレの悪循環が続いている。

前日には、国際通貨基金(IMF)に500億ドルの金融支援の前倒しを要請した。通貨インフレ抑制が目的だが、ペソの下落は止まらず、過去最安値を大幅に更新した。今年のインフレ率はすでに25%に達している。

アルゼンチンやトルコといった新興国に経済危機が迫る今、世界の多くの投資家は恐怖に駆られて新興国市場から資金を引き上げている。しかし専門家は、アルゼンチンの場合、投資家が先走り過ぎて事態を悪化させていると指摘する。

「アルゼンチンがトルコのようになりそうだという不安がある。統計上の問題は似ているし、対外的な脆弱性も似ている。アルゼンチンは今年、数カ月で急激に経済が後退する『リセッション(景気後退)』を迎えるかもしれない。しかし私は、投資家は悲観的過ぎると考えている」と、米シンクタンクのピーターソン国際問題研究所の上級フェロー、モニカ・デボルは本誌の取材に語った。

アルゼンチンはトルコとは違う

「トルコとアルゼンチンは大きく異なる。トルコの債務はドル建てで、外貨準備の後ろ盾が必要だが、トルコは十分な外貨準備を持っていない。トルコには債務不履行(デフォルト)の兆しが見えている。一方アルゼンチンには十分な外貨準備がある。人々は先走り過ぎている」

相次ぐ急激な利上げやIMFへの支援申請は、アルゼンチンの経済状況をさらに悪化させる可能性がある。

「(アルゼンチン中銀は)利上げを続けているが、これは自暴自棄の行動に見える。必要もないのに過剰な反応をして、パニックを増幅させている」と、デボルは語る。

「問題なのは、アルゼンチンはまるで危機が避けられないかのように対応していることだ。そうした行動は本物の危機を招いてしまいかねない。過敏に反応するのをやめ、行動を抑制するべきだ」

IMFが29日に発表した声明で、「グローバル金融市場の最近の混乱からアルゼンチン経済が影響を受けないよう分離するために、アルゼンチン政府の経済計画を見直す」方針を明らかにした。一方アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領はテレビインタビューの中で、IMFからの金融支援は市場の不確実性を取り除くためのものだと説明した。

しかし多くの関係者は、アルゼンチンのインフレ率は上昇し続けると予想する。そして、IMFからの支援と利上げ程度では、投資家の信用を取り戻すことはできなそうだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主

ビジネス

ゴールドマン・サックス証券、持田前社長の後任に居松
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中