最新記事

都市開発

マレーシア、マハティール首相が都市開発の外国人物件購入を禁止 狙いは中国人投資家排除?

2018年8月28日(火)18時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)


巨大都市開発「フォレスト・シティー」で外国人による不動産物件購入を禁じたマハティール首相 The Star Online / YouTube

政権交代で事態が一転

ところが、2018年5月9日のマレーシア総選挙でナジブ前首相の「金権汚職体質」を批判する野党連合が勝利、同国初の政権交代が実現した。その野党を率いたのがマハティール首相で、首相就任後は国民への公約でもあるナジブ前政権の複数の巨大プロジェクトの見直しに着手したのだった。

シンガポールまでの高速鉄道構想についてマハティール首相は中止を決断してシンガポール側に通告。また中国企業が関わってすでに建設が着手されている東海岸を走る高速鉄道計画もマハティール首相が訪中して、8月20日に北京で習国家主席や李克強首相にその中止を直談判して、基本的に了承を得たとしている。

そして今回の「フォレスト・シティー」の外国人への不動産販売の禁止措置である。実は「外国人」とはしながらも「事実上は中国人への販売禁止措置」であることは誰の目にも明らかで、投資目的の不動産取得を禁じるとともに区域内の住居への中国人の転入を禁止したものといえる。

マハティール首相は会見の中で「フォレスト・シティーに住むという外国人にはビザを発給しない」とまで強い姿勢を示した。

こうした姿勢の背景には中国人によるマレーシア国内での不動産取得への反発、さらに「一帯一路」構想からの離脱というマハティール首相による「対中関係を見直し」への強い意志が反映しているといえる。

中国への配慮もみせるマハティール首相

しかし、一方でマハティール首相は「こうした住居はマレーシア人のためではなく外国人のために建設されているかのようで、マレーシア人は実際のところ部屋を購入しようにもできないのが実情だ」と述べて、なにより自国民優先が今回の方針の理由であると説明している。つまりあくまで「マレーシア人優先」「外国人を制限」を強調することで中国の怒りの矛先が向かないような配慮も示している。

ジョホール州内のマレーシア人の間からも「フォレスト・シティー」構想と中国人による不動産買い漁りには「不動産市場の高騰」や「埋め立てによる漁業への影響」「周辺地区の環境への余波」などを理由に不満が高まっていたこともマハティール首相の方針の背景にはあったとの見方が有力だ。

「フォレスト・シティー」は日本でも一部の海外不動産サイトで大きく取り上げられ「今、東南アジアで最もホットな場所であることは間違いなく、そのポテンシャルは計り知れない」などとPRされていた。

しかし今回のマハティール首相の方針では日本人も当然その対象となり、実際に居住するにしろ投資目的で購入するにしろ、外国人である限りは事実上難しくなったことは間違いない。「外国人」がどうしても「フォレスト・シティー」への居住を望むなら、マレーシア人が購入した部屋を賃貸するか、マレーシア人名義での購入しか抜け道はないことになりそうだ。

それよりなにより、すでに予約販売で契約を済ませた多くの中国人に今後どう対応していくのか、販売に関わった会社は頭を悩ませている。そもそもこういう事態に至った今となっては、建設主体となっている中国系企業が今後も事業を継続するかどうかすら先行き不透明で、新都市建設構想そのものへの影響すら懸念される事態となっている。

8月17日、マレーシアの独立系世論調査会社「ムルデカセンター」が8月7日から14日にかけて1160人を対象に実施した世論調査の結果、首相就任後約100日の「ハネムーン期間」が経過したマハティール首相への支持率が71%と高い数字であったことを明らかにした。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

MAGAZINE

特集:弾圧中国の限界

2019-6・25号(6/18発売)

ウイグルから香港、そして台湾へ──強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴

人気ランキング

  • 1

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  • 2

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  • 3

    タンカー攻撃、イラン犯行説にドイツも異議あり

  • 4

    嫌韓で強まる対韓強硬論 なぜ文在寅は対日外交を誤…

  • 5

    「香港は本当にヤバいです」 逃亡犯条例の延期を女…

  • 6

    石油タンカーが攻撃されても、トランプが反撃しない…

  • 7

    年金問題「老後に2000万円必要」の不都合な真実

  • 8

    アメリカは「いざとなれば瞬時にイランを破壊できる」

  • 9

    老後資金二千万円問題 100年あんしん年金の最大の問…

  • 10

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 1

    ファーウェイ、一夜にして独自OS:グーグルは米政府に包囲網解除を要求か

  • 2

    タピオカミルクティー飲み過ぎで病院!? 中国の14歳少女に起こった一大事

  • 3

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  • 4

    厳罰に処せられる「ISISの外国人妻」たち

  • 5

    香港大規模デモ、問題の「引き渡し条例」とは何か?

  • 6

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 7

    「ゴースト」「ドイツの椅子」......ISISが好んだ7種…

  • 8

    日本の女性を息苦しさから救った米国人料理家、日本…

  • 9

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  • 10

    ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

  • 1

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 2

    台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死

  • 3

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 4

    現代だからこそ! 5歳で迷子になった女性が13年経て…

  • 5

    プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正…

  • 6

    タピオカミルクティー飲み過ぎで病院!? 中国の14…

  • 7

    貧しい人ほど「割増金」を払い、中・上流は「無料特…

  • 8

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 9

    トランプ、エリザベス女王にまたマナー違反!

  • 10

    脳腫瘍と思って頭を開けたらサナダムシだった!

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
広告営業部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月