最新記事

中国政治

中国政界の「消防隊長」王副主席 米中摩擦では火消し役の影薄く

2018年7月10日(火)13時36分

7月9日、米中貿易摩擦が激化したというのに、中国の汚職対策や国内金融問題への対応で中心的な役割を果たし、「消防隊長」の異名を取る王岐山副主席(写真左)の影が薄い。2015年北京で撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)

米中貿易摩擦が激化したというのに、中国の汚職対策や国内金融問題への対応で中心的な役割を果たし、「消防隊長」の異名を取る王岐山副主席の影が薄い。

王氏は副首相時代に米中戦略経済対話の中国側代表も務め、副主席への抜擢はトランプ米大統領対応の中核を担うためと外交筋は受け止めていた。それだけに米中貿易摩擦問題で王氏に表立った動きがみられないのは奇異なことだ。

王氏は3月の副主席指名前にはテリー・ブランスタッド駐中国米大使やスティーブ・バノン前首席戦略官らと会談していた。米業界筋によると、この数カ月間には複数の米企業幹部とも秘密裏に懇談している。

しかし表舞台に表れる機会は少なく、最近では5月に北京で米企業幹部と会談し、5月末にロシアの会合に参加した程度にすぎない。王氏にまつわる報道自体も先々週にバングラデシュの外相と会談したことが伝えられた程度だ。

トランプ氏は習近平国家主席との友好的な関係をアピールし続けているが、王氏の影の薄さは米中関係にとって悪い兆候だとチャイナウォッチャーはみている。近い将来、米中貿易摩擦に打開の見通しがあるのなら、王氏はもっと大きな役割を担っているはずだという。

米戦略国際研究所(CSIS)のスコット・ケネディ副部長は「交渉がまとまり、それが守られるというよほど大きな確信を持てない段階で、王氏が動くのは馬鹿げたことだろう」と話す。

王氏の米企業幹部との会合の様子を知る関係筋によると、王氏は「話し合いによって確実な結果が得られるとの見通しを持つことができた場合でなければ」関与しないという。この関係筋は「交渉の余地があれば、どこかの時点で割り込んでくるだろう」と話した。

劉鶴副首相が中国側代表を務める米中通商交渉は話し合いが決裂し、米国は6日に中国からの輸入340億ドル相当に追加関税を導入。中国も同規模の米国からの輸入に追加関税を課し、報復措置に出た。米国はさらに中国からの輸入160億ドル相当に追加関税を課す第2弾の制裁関税を検討しており、制裁規模も最大で5000億ドル相当に拡大すると警告している。

外交筋によると、王氏の外交スタイルはこれまで水面下で目立たないものであり、意思決定や政治面での重要な地位を失った兆候は見られないという。

今月70歳になる王氏は、王毅外相や、共産党の中央外事工領導弁公室主任を務める楊潔チ政治局員よりも政界での地位が高い。実際に王氏の仕事ぶりを目にした消息筋によると、王氏はハーバード大で教育を受けた劉副首相と違って英語は話さないが、率直さを好み、非公開の場では単刀直入な物言いをするという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中