最新記事

スパイ

ロシア元スパイの相次ぐ暗殺は、情報機関の暴走説

2018年7月5日(木)18時45分
オーエン・マシューズ

スクリパリの襲撃犯が政治的な影響に配慮していなかった可能性もある。プラハ国際関係研究所のマーク・ガレオッティは、各種治安機関に対するプーチンの統制に「ひび」が入っており、組織間の対立がスクリパリ襲撃事件を引き起こした可能性を指摘する。

KGBの後継機関でかつて国内の治安を担っていたロシア連邦保安局(FSB)が最近「国外での活動を活発化させている」と、ガレオッティは言う。

FSBは情報機関として長い歴史を持つロシア軍参謀本部情報総局(GRU)とは別組織で、大統領府の庇護下にあるため「旧来の常識を知らないし、気にしてもいない。極めて強大で、外務省が困る事態を引き起こすこともいとわない。素人っぽいが、好戦的だ」。

FSBがロシア政府に不都合な人物を国外で殺害できる権限は、テロ対策の名目で06年に成立した法律に基づいている。プーチンの10年の「裏切り者は死ぬ」発言も、情報機関に殺害のお墨付きを与えた。

それでもなぜ今になってスクリパリは殺されたのか。彼は19年前にGRUを去り、イギリスで静かに暮らしていた。リトビネンコと違い、殺害時点で英情報機関と関係していた証拠はない。個人的な恨みとの説もある。90年代に彼の裏切りで300人ものGRU関係者の身元が暴露されたと言われている。

いずれにしても、FSBの関与が確認されれば対ロシア制裁は一段と厳しくなる。ロシアは戦争状態にあると訴えることで求心力を高めてきたプーチンには好都合だが、ロシア経済は深刻な打撃を受ける。ロシア人スパイはこれまで以上に自由に世界各地で暗殺を繰り返すだろうが。

<本誌2018年7月3日号「特集:おそロシア」より転載>

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独仏両国、次世代戦闘機の共同開発中止に向けて協議=

ワールド

トランプ氏、マクドナルドのイベントで演説 インフレ

ワールド

英、難民政策を厳格化 反移民感情の高まり受け制度悪

ワールド

元FBI長官起訴で不正行為 連邦地裁が記録の提出命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中