最新記事

北朝鮮情勢

北朝鮮の非核化を危うくするトランプの孤立主義

2018年6月27日(水)21時00分
ロバート・マニング(米大西洋協議会上級研究員)

今回の非核化の合意が、失敗続きだったこれまでの対北交渉と根本的に異なるとしたら、それは金正恩の意図が、前任者とは異なるという点だろう。トランプも、北朝鮮が経済を開放し、世界市場に参加するという戦略的な選択をすれば、経済成長の可能性があることを強調した。

もし金が、中国の改革開放を行った鄧小平(トン・シアオピン)、あるいは旧ソ連でペレストロイカ(改革)を推進したミハイル・ゴルバチョフのような存在になろうとするなら、そして現在34歳の彼が今後数十年を生き延び、北朝鮮のために中国に似た市場経済改革を必要とするなら、また政権の正統性の根拠を、核兵器ではなく中国のように経済的実績に求めようとするなら、トランプの提案は確かに金の望みにかなっている。

アメリカは、リスクなしで金の本気度を試すことができる。国際通貨基金(IMF)や世界銀行、世界貿易機関(WTO)への加盟準備を始めるよう勧めてみればいいのだ。

しかしトランプは、アメリカの納税者の金は一銭も北朝鮮にはいかないと宣言している。したがって、北に経済的インセンティブを提供するためには、幅広い地域協力が必要なわけだが、トランプの孤立主義によってさまざまな問題が生ずる可能性がある。

核の凍結で終わらせないために

たとえば国際原子力機関(IAEA)は、北朝鮮の核開発計画の査察と監視しかできない。核分裂性物質や核兵器の廃絶には、国連常任理事国5カ国の関与が必要になる。あるいはこの場合、核兵器を実際に廃棄した経験のあるアメリカ、中国、ロシアの力だ。

また、韓国や中国、ロシアによる対北経済支援は、北朝鮮の核兵器の廃棄や破壊のペースよりも早く進んではならないが、米政府がこれを検証する方法は今のところない。

もし北朝鮮を利する援助や投資、貿易などの動きが、非核化より先に進んでしまえば、アメリカの交渉力は損なわれてしまう。その結果、非核化は完全な非核化ではなく核開発の凍結で終わってしまう危険性が大きい。

アメリカ、中国、ロシア、日本、そして韓国が互いの外交努力を調整し同期させて最大の効果を上げるためには、5カ国が参加する枠組みが必要だ。交渉が一般的な原則から約束の実行へと移っていけば、そうした協力は不可欠になる。核兵器の解体や核弾頭の廃棄であれ、経済援助や職業訓練であれ、北東アジア諸国との協力があればより成功の確率が大きくなるだろう。

もしアメリカがそうした協力体制を築いて生かせなければ、成功は難しい。そうした努力がみられなければ、北朝鮮は5カ国を分断しようとするだろう。そうなれば、非核化の目標は遠のくばかりだ。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中