最新記事

欧州移民危機

EU首脳、難民・移民審査施設設置で合意 ただしすべてが加盟国の「任意」で実施

2018年6月29日(金)15時45分

6月29日、欧州連合(EU)首脳会議は、難民・移民申請を取り扱う共同の審査機関を域内に設置することや、域内での難民・移民の移動を制限することなどで合意した。写真はユンケルEU欧州委員会委員長。ブリュッセルで24日撮影(2018年 ロイター/Yves Herman)

欧州連合(EU)首脳会議は29日、難民・移民申請を取り扱う共同の審査機関を域内に設置することや、域内での難民・移民の移動を制限することなどで合意した。

29日未明まで続いた首脳会議は、9時間に及んだ夕食会などで激論が交わされたが、難民・移民問題を巡る加盟国間の深い溝が埋まることはなかった。中東やアフリカから多数の難民が流入した2015年の難民危機がいまだに尾を引いている現状が浮き彫りになった。

ドイツでは難民対策を巡り連立政権内に亀裂が生じており、ユーロ懐疑派政党が新政権を担うイタリアは、自国の要求が反映されていない合意案は拒否する構えを示してきた。

首脳会議を終えたドイツのメルケル首相は早朝、記者団に、EU首脳が共同文書で合意したことは「総じて前向きなシグナルだ」と強調。その上で「意見の相違を埋めるため、依然として多くの作業が必要だ」と付け加えた。

イタリアのコンテ首相は「イタリアはもはや孤立していない」と語った。

フランスのマクロン大統領は「欧州の協調」が各国の利益に勝ったことを意味するとの見方を示した。

共同声明は共通の難民・移民申請審査施設を設置し、域内の難民・移民の移動を制限すると表明。ただ、実質的にすべての合意項目が加盟国の「任意」で実施されるとしている。

また、対外国境の管理を強化することや、難民・移民流入の抑制に向けてトルコ、モロッコ、北アフリカ諸国への資金支援を拡大することでも合意した。

共同声明には複雑な表現が多く含まれており、加盟国間で異なる意見に配慮したとみられる。

メルケル首相が連立を組むキリスト教社会同盟(CSU)はEUの新たな移民・難民対策を確立するよう求めてきたが、今回の結果に満足するかどうかは不明。CSUは、首脳会議の結果に満足できない場合は、バイエルン州でメルケル氏が反対する国境管理の導入に踏み切ると警告しており、実行に移せば連立政権の崩壊につながる可能性もある。

[ブリュッセル 29日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中