最新記事

米朝首脳会談

「非核化」で骨抜きにされた「CVID」では、誰も核を手放さない

2018年6月12日(火)13時04分
ジョシュア・キーティング

「非核化」という言葉は、とりわけ「朝鮮半島の非核化」という使い方をされる場合、きわめて曖昧なコンセプトだ。

ジョージ・W・ブッシュ政権時代に北朝鮮の核問題をめぐる協議で米代表団の代表を務めた北朝鮮問題の専門家で、トランプが駐韓米国大使に任命したビクター・チャは6月はじめに議会で、北朝鮮は非核化という言葉を「北朝鮮に対する脅威がもはやなくなった将来のいずれかの時点で、朝鮮半島から核兵器をなくしてもいい、という意味で使っている」と指摘する。米軍が駐留部隊を撤退させること、そしてアメリカが、北朝鮮が核で抑止しなければならないような敵対的な軍事行動をやめることがその条件だ。

北朝鮮は「核開発計画が黙認されることを目指して駆け引きをしている」とルイスは言う。これは北朝鮮がいつか最終的に核兵器を放棄するという約束と、必ずしも矛盾するものではない。核保有国であるアメリカが、核不拡散条約(NPT)の締約国として核兵器の隔絶を目指しているのも、これと同じことだ

CVID=何も意味しない言葉?

トランプとポンペオに公正を期して言うならば、CVIDの「D」を「非核化(Denuclearization)」に変えたのは彼らが最初ではなく、バラク・オバマ前政権も「D」を「非核化」としたことがあった。だが一連の会談に向けてポンペオが事実上、CVIDのコンセプトを「非核化」にまとめたことに重要な意味がある。

CVIDを朝鮮半島の『非核化』という意味に変えるのは愚かなことだ」とルイスは言う。「実際には何も意味しない言葉になる。相容れない二つのコンセプトを組み合わせた、矛盾した表現だ」

実際にCVIDが意味するのは、トランプにとっては「首脳会談の成果としてツイッター上や支持者集会でアピールできる何かを手にすること」、一方の北朝鮮にとっては「実際には何も放棄しないこと」になるかもしれない。ボルトンにとっては気に入らない、だがポンペオは実現に漕ぎつけたい空論だ。

「トランプは今回の米朝首脳会談を実現するためなら、どんなことでもするつもりだ」とルイスは言う。「その首脳会談に、完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化の合意が含まれるなら、彼はその合意に喜んで署名するだろう」

(翻訳:森美歩)

© 2018, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P、ステーブルコインのテザーを格下げ 情報開示

ビジネス

アサヒGHD、12月期決算発表を延期 来年2月まで

ビジネス

午前の日経平均は続伸、5万円を回復 米早期利下げ思

ワールド

日米首脳電話会談の内容、これまで説明した以上の詳細
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中