最新記事

冤罪

集団セックス殺人の犯人にされた、アマンダ・ノックスの今とこれから

2018年6月20日(水)11時15分
マリア・ブルタジオ

30歳の今も彼女はシアトルに住み、不当な告発の犠牲者のための活動に力を入れている。この場合の告発は、司法だけでなくメディアによる告発も含む。

メディアの執拗な報道には、取材対象のアイデンティティーを?奪する力がある。「私という人間は原形をとどめないほど誇張された。私がレイプゲームの元締めだったなんてバカげてる! 私は闇の女帝扱いされ、世界で最悪の性的倒錯者のように描かれた。そんな証拠は何もなかったのに」

ノックスが番組でインタビューした女性は全員、同じような経験をした。第1回のゲストは、モデルからフェミニズム活動家に転じたローズ。彼女は人気ラッパーのウィズ・カリファと離婚後、ミソジニー(女性蔑視)に基づく非難や中傷の嵐に何カ月もさらされた。

それでもローズは、「女性に不適切な期待を持つ男たちに愛情を込めて」語り掛け、教育することの大切さを説いた。「アンバーは温かくて穏やかで、母親のような存在感があった」と、ノックスは言う。

ノックスは今もミソジニーに平静ではいられない。「他の女性(が言葉の虐待を受けているの)を見ると、ついカッとなる。性的な侮蔑や攻撃を受けたときの気持ちが分かるから」

ノックスが番組のアイデアを思い付いたのは「#MeToo」運動が始まるずっと前。当時は話を聞いてもらうのに苦労した。「冤罪被害者の誰もが直面する壁を私も感じた。虚偽の自白を強制されるのがどういうものか、耐え難いほどの努力を払って説明しなくてはならなかった」

相談した相手はほとんどが男性だった。「なぜ重要な問題なのか、彼らは理解できなかったか、理解しようとしなかった」

だが昨年10月、大物映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンをはじめとする権力者の男性によるセクハラが告発され始めると、全てが変わった。突然「女性たちの経験が大切なものとして扱われるようになった。驚きだったし、とても感謝している。ここまで来られるなんて思わなかったから」

彼女の言う「ここまで」は、女性に対する扱いだけでなく、本人の立場の変化も指している。「私は少し前まで、人生で一番大切な数十年を刑務所で過ごすのだと思っていた。やってもいない罪のせいでね」と、ノックスは言う。「あれから10年もたたないうちに、ここまで来られるなんて信じられない」


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年6月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中