最新記事

米朝新局面 今後のシナリオ

米朝会談を「キャンセル」されても平気な理由

2018年5月29日(火)17時15分
トム・オコナー

ILLUSTRATION BY SHUTTERSTOCK


180605cover-150.jpg<中国とロシアと韓国を味方に付けた金正恩は「プランB」を持っている――。首脳会談を中止発表したトランプ、そして金正恩の真意。武力衝突から再度の歩み寄りまで、今後の展開を徹底検証した本誌6/5号特集「米朝新局面 今後のシナリオ」より>

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、史上初の米朝首脳会談を切望していたはずだった。しかし今は、ドナルド・トランプ米大統領との会談が実現しなくても困らないのかもしれない。

北朝鮮分析サイト「38ノース」の研究者たちの見方によれば、米朝の対話が再び軌道に乗る可能性は大きくないが、対話が動きだした場合も、北朝鮮の選択肢は以前より増えている。

「(北朝鮮の)立場が強くなった」と、38ノースの創設者であるジョエル・ウィットは述べている。「北朝鮮は、首脳会談が物別れに終わったり、トランプ大統領が一方的に会談を取りやめたりした場合に備えて、しっかり『プランB』を用意していた。今の北朝鮮は、中国、ロシア、さらには韓国とも良好な関係を築いている。以前のように最大限の圧力をかける路線に戻れると思っているなら、米政府は状況を見誤っていると言わざるを得ない」

トランプは、首脳会談をキャンセルすると唐突に発表して以降、北朝鮮に対する発言のトーンを和らげている。中止表明を受けて北朝鮮側が珍しく丁重な対応を見せていることに、気をよくしているようだ。それでも、少なくとも現時点では会談実施の方針を表明するには至っていない。

トランプ政権では珍しいことではないが、首脳会談開催の決定は、中止の決定と同じくらい突然だった。

米朝首脳会談開催の合意は、北朝鮮と韓国の何カ月にもわたる直接交渉の産物だった。韓国の鄭義溶(チョン・イヨン)国家安全保障室長は3月初めに北朝鮮の平壌を訪れて金と会談したのち、ワシントンに飛んだ。

その3月8日、鄭がホワイトハウスの前で記者会見し、金がトランプに首脳会談を呼び掛けたことを明らかにした。金は、それまで暴言と脅しの応酬を続けてきた相手であるトランプに対する姿勢を一変させたことになる。

このとき、トランプは即座に金の誘いを受け入れることを決断し、5月末までに会談を行いたいと表明。トランプと金の首脳会談は6月12日にシンガポールで開催されることになった。

6年越しの中朝会談の意味

首脳会談の開催で合意したとき、トランプだけでなく、金も大きな外交上の成果を上げたと感じていた。金はその勢いのまま「外交デビュー」を果たし、中国を訪問して習近平(シー・チンピン)国家主席と初めて会談。専門家のみるところ、突然の米朝雪解けにより、習は朝鮮半島問題で脇役に押しやられたように感じていたようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、カナリーワーフに巨大な英本社ビル新設

ワールド

特別リポート:トランプ氏の「報復」、少なくとも47

ビジネス

欧州委、SHEINへの圧力を強化 パリ裁判所の審理

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中