最新記事

テクノロジー

アマゾンが売り込む「監視社会」、顔認証技術を警察に提供

2018年5月24日(木)20時00分
エイプリル・グレーザー

毎日の写真投稿3億5000万点

アマゾンはまた、警官が装着するボディカメラとリコグニションを統合する利用方法を推奨している。それにより、例えば路上で交通違反を取り締まるときなども、データベースと照合して被疑者に犯罪歴がないかチェックできるという。

警察は顔認識システムを何年も前から使っているが、これまでは比較的小規模なテクノロジー企業の開発したツールを採用してきた。それでもFBIの顔認識データベースは4億点を上回る画像にアクセスできると言われている。ジョージタウン大学法学部大学院の研究チームの調査によると、アメリカの成人の約半数は、警察の顔認識データベースに少なくとも1点は写真が入っているという。米国土安全保障省は不法滞在者を検挙するため、一部の空港で顔認証ソフトを使用している。

だが、膨大なユーザー情報を持つアマゾンがこの分野に進出したことで、同じ強みを持つ大企業の参入が相次ぐ可能性がある。フェイスブックの月間ユーザーは20億人を突破し、投稿写真は1日に3億5000万点を超える。同社は「史上最大の顔画像データベース」を持ち、ディープラーニング(深層学習)機能を生かした顔認識ソフト、「ディープフェイス」で写真のタグ付けなどを自動化するサービスを提供してきた。

だが、この機能はプライバシー侵害につながるとして訴訟が起き、フェイスブックは米連邦取引委員会(FTC)の要請に応じ、ユーザーの「明確な同意」がない限り、顔認識ソフトの使用を控えることにした。ただし、この取決めは2021年までの期限付きだ。

後ろ姿でも個人を特定

フェイスブックは引き続き新技術の開発を進め、顔を隠したり後ろを向いていても、髪や体型、服、姿勢などで個人を特定できるソフトなどの実用化を目指している。2017年にはスマートフォンのカメラなどから取得した表情データを基に、ユーザーの気分に合った広告を表示できる技術で特許を取得した。

アマゾンは声明で、同社は法律を順守し、責任を持って技術を利用するよう顧客に求めていると弁解した。しかし法律を守った利用なら問題がないとは限らない。例えば、リコグニションを使って入国管理局の捜査官が不法滞在者を見つけて家族と引き離すことや、警察官がデモ参加者を監視することは、人権を脅かすことにならないだろうか。

警察に監視システムを売り込むまでもなく、アマゾンは多額の収益を上げている。ジェフ・ベゾスCEOは世界一の大富豪だ。監視社会に加担すれば一般ユーザーの反感を買いかねないが、強気のアマゾンは人権団体の批判に耳を貸しそうにない。

© 2018, Slate

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中