最新記事

セクハラ

インドで相次ぐ性的暴行事件 誰も語らない「少年被害」

2018年5月21日(月)18時20分


家父長制の弊害

性的虐待の被害者に対してカウンセリングを行うソーシャルワーカーによれば、家父長制が根強く残るインド社会では、女子が男子に比べて多くの制約の下で育てられ、屋外で過ごす時間も短いため、男子児童の方が標的になりやすいと指摘する。

インド西部都市プネーに住む22歳の男性は、5歳のころから2年にわたり、ある男から繰り返しレイプされていたが、このことをどう受け止められるか不安だったため、この悲惨な体験を両親に打ち明けられるようになったのは、たった1年前のことだと語る。

「その男にレイプされていた公園に私は通い続けた」と、ダリワラ氏の財団でカウンセリングを受けていたこの若者は語った。「私はその男が怖かったが、家にいて怠けていると親の目に映ることが嫌だった。母を怒らせたくなかった」

ロイターは、彼が語った詳細を裏付けることができなかった。

いずれは心理的なトラウマを克服するだろうという希望的な観測から、親が息子が受けた虐待被害を報告することに躊躇を覚える場合が多いと、一部の専門家は語る。

前述したプネーの若者は、両親から「前を向いて、この事件に人生を決めさせてはいけない」と言われたと語る。両親にとってもデリケートな話なので、詳細な連絡先はすぐには教えてもらえなかった。

被害をなかなか口にできないこうした状況については、「インディアン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー」が昨年掲載した論文がそれを鮮明に描き出している。

レイプ被害を受けた9歳の息子が心理学的治療を受けることに抵抗する父親が漏らした発言を、この論文はこのように引用している。「息子は処女膜を失ったわけでも、妊娠したわけでもない。女々しさを捨て、男らしく振る舞うべきだ」

この論文の共著者であり、バンガロールの病院で上級精神科医を務めるビージャヤンティ・K・S・スブラマニヤン医師は、少年時代に性的暴行を受けたにもかかわらず被害を警察にまったく通報しなかった成人男性を少なくとも8人診察したという。

「少年は被害者のイメージに合わない。家父長制を重んじる社会の下で、彼らは冷静に対処することを期待されている」と同医師は語る。「少年が成長すれば強くなる、だから心理学的治療は必要ない、と人々は考えている。まったく馬鹿げた話だ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9%最終

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ=経済紙

ビジネス

午後3時のドルは153円後半、9カ月ぶり高値圏で売

ワールド

英で年金引き出し増加、今月の予算案発表で非課税枠縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中