最新記事

「日本すごい」に異議あり!

ムスリム不在のおもてなし、日本の「ハラールビジネス」

2018年5月16日(水)17時30分
後藤絵美(東京大学准教授)

ハラール認証を受けたカットフルーツを提供する食堂(千葉) Yuya Shino-REUTERS

<16億人のイスラム教徒を呼び込めと日本の官民挙げてブームとなったハラール認証ビジネス――その過熱化は当事者のムスリムたちを苦しめかねない>

最近、「ハラールビジネス」が話題になっている。ハラールとは「合法な」「許された」という意味のアラビア語。ハラールビジネスとは、イスラム教徒にとって宗教的に「許された」商品やサービスを扱うビジネスのことだ。

まず企業は商品やサービスについて、ハラールかどうかの認証を行う団体や機関に審査を依頼する。こうした認証団体や機関は、原材料や製造・流通過程、広告やサービスの内容など詳細な書類審査と実地検査を行う。

そこで全ての点においてハラールと認められれば証明書が発行され、認証マークの使用が認められる。企業がハラール認証を受けるには結構な時間と費用がかかる上、せっかく取得した認証も1、2年ごとに更新が必要となる。

世界に16億人いるといわれるイスラム教徒の市場開拓を求めて、「ハラール食品」「ハラール化粧品」「ハラール医薬品」など、さまざまな分野のビジネスが注目されている。海外に展開する日本企業もその例外ではない。

またイスラム圏からの観光客誘致や、20年の東京オリンピック開催に伴う訪問者の増加に備えて、ハラール認証を取り入れ、日本的「おもてなし」を提供しよう、その上商機を得ようという声が官民を挙げて大きくなっている。

さらには、ハラールビジネスのマニュアル本や攻略本が次々と出版され、その成功例や失敗例が新聞や雑誌をにぎわせるなど、まさにハラールブームといっていい状況だ。

ただ、日本企業が必死に取り入れようとしているハラール認証の歴史が実はごく浅いことや、専門家の間でハラールビジネスに否定的な意見が少なくないことはあまり知られていない。

ハラールという考え方自体は、7世紀にイスラム教が始まった当初からあったと言われる。イスラム教の聖典コーランには、豚肉や酒などの飲食を禁じたり制限したりする教えがある。その他、服装や振る舞い、物の使用についての教えも含め、「何がハラールなのか」という点は常に議論されてきた。

イスラム教徒同士でさえその答えは、社会や文化、あるいは個人によっても異なる場合があった。そうした理解や実践の違いは決して忌み嫌われるものではなく、長らく許容されてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中