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ヘイトスピーチ、誹謗中傷、言葉狩り...... インドネシア、政治の年に高まる緊張

2018年5月7日(月)17時12分
大塚智彦(PanAsiaNews)

5月1日、ジャカルタではメーデーに参加した労働者らのデモ隊が警官隊と一触即発の状況に。Beawiharta Beawiharta-REUTERS

<インドネシアが民主化によって獲得した「表現の自由」が、政治の季節に対立を生み出すきっかけになっている──>

東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の民主国家インドネシアが揺れている。2019年の国会議員選挙、大統領選挙の前哨戦となる統一地方首長選挙を6月に、そして正副大統領候補の締め切りを8月に控えて宗教や民族に関わる発言が大きくクローズアップされ、問題視され、物議を醸しているのだ。

特にヘイトスピーチだ、反イスラムだ、国家と民族を分断しようとする誹謗中傷だとして個人攻撃や警察への告発が多発、公の場での謝罪に追い込まれたり、警察の事情聴取を受けたり、脅迫されたりと「言葉狩り」のような状況は「モノ言えば唇寒し」という閉塞社会にインドネシアを次第に追い込みつつあり、一触即発の事態への懸念も高まっている。

スカルノ大統領3女が"反イスラム"で謝罪

3月29日、首都ジャカルタの中心部で開催されたファッションショーのイベントに"インドネシア独立の父"としていまだに強い支持と尊敬を集めるスカルノ初代大統領の3女スクマワティさんが登場。自作の詩「インドネシアの母」を朗読した。

その詩の中で「私はイスラムのシャリア(イスラム法)は知らないが、インドネシアの結った髪は麗しく、チャダル(イスラム教徒の女性が目以外を覆う布)よりも美しい」「インドネシアの歌はとても麗しく、アザーン(イスラム教寺院の礼拝の呼びかけ)より美しい」と述べた。

これが「イスラム教への冒涜である」とジャカルタ特別州の弁護士グループ、そしてイスラム団体「ナフダトール・ウラマ(MU)」が批判の狼煙を上げ、4月3日にジャカルタ警察に「宗教冒涜罪容疑」で告発した。

これを受けてスクマワティさんは翌4日に「イスラム教徒で不快な思いをした人に謝罪します。侮辱の意図はなかった。私もイスラム教徒でそのことを誇りに思っている」と全面的謝罪に追い込まれた。

それでも納得しない一部イスラム急進派は4月6日にデモが挙行、参加者は「スクマワティを逮捕しろ」と叫んだ。

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